10月23日(水)の夜、野田尚史さんによる「著者との対話」(『日本語教育のためのコミュニケーション研究』)が行われました。今回の報告記事は、参加者の中から吉田聖子さんが書いてくださいました。
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著者との対話(野田尚史氏) 『日本語教育のためのコミュニケーション研究』
報告者:吉田聖子(あけぼの日本語教室)
定刻には、部屋は満杯状態、その参加者は
○大学院でコミュニケーションを研究している方
○現在コミュニケーション中心の授業を実践しており、そのステップアップを求めて参加した方
○野田先生の本を読んで感動し、今日は直に著者と対話することで更に理解を深めたいと意欲満々で参加した方
○とても控えめだけどさりげないセールストークができる出版社の方など
「今日は『著者との対話』という言葉に魅かれてやって来ました。ここはおもてなし上手な“お母さん”がいらっしゃって居心地がいいですね。大阪人は対話が大好き、今日のルールは、割り込み自由でいきましょう。」という野田尚史さんの一言から対話セッションがスタートしました。
本当の意味で日本語教育をコミュニケーション中心に変えるには、その基盤となる研究を語彙や文法など言語の構造中心からコミュニケーション中心の研究に切り替える必要がある。
≪自己紹介の定型文からわかること≫
全員の自己紹介がおわるや否や、著者から投げかけられた「自己紹介に、『~は~です』なぜ?この表現、実際に使いますか。」という問いをめぐって喧々諤々。
〈どうして~は~です? → やさしいから → どこが? → 名詞文は活用がないからやさしい → ほんとう? → 動詞文は活用が難しい → でも「~ます」だけでもよくないですか。「~ます」しか使わなければ 日本語ほど易しい言語はないと思いませんか。…〉
こんな簡単なことで、ここまで話が熱く盛り上がりました。冒頭から、著者を囲んで対話!対話!対話!
【野田さんからのメッセージ】 その1
何が簡単で、何が難しいかをはっきりさせておかなければいけない。
知識より考える力が必要。ホンマカイナの心が大事
【野田さんからのメッセージ】 その2
技能を分けて考えなければ、本当の意味でコミュニケ―ションの練習にならない。そのためにもこれからの教師には、スマホのアプリなどコミュニケーションに便利なツールを有効に使いこなす力も必要。(会場の半数は冷や汗)
【野田さんからのメッセージ】 その3
コミュニケーション上手のコツは、相手をよく観察して、なぜ出来たのか、その原因究明をしっかりすること。
教師は学習者の性格をしっかり見極め、各自に必要な環境を整えます。教室外でうまくコミュニケーションが出来ない人のためには、教室の中で良質なコミュニケーションの場を作り出せばいいんです。その意味でも、早い段階から会話のトレーニングは必要です。
≪関東と関西では教師力が違う?≫
関西から関東へ移動してきた若いころのお話
関東では、教師のスケジュールがカリキュラム通りびっちり書かれているので、事前の準備ができるが、関西では「あしたここからお願い。」の一言で引き継ぎはおわり、そこからは各自の腕の見せ所。このお願いに対応できなければ教師失格。
★ ―お茶の時間― ★
【野田さんからのメッセージ】 その4
再び自己紹介の定番文型に戻って、教科書によく出てくるこのような文型は自己紹介でよく使われる表現を調査して作られたものではない。だから、私たちは「自己紹介の時、本当に必要なものはなにか」ということをもう一度考えてみなくてはならない。
会社、学校、バイト先、1:1、第3者の存在など場面、状況によって必要とされるものは違ってくる。また目的達成の道筋は人によって違う
〈自己紹介の名前→覚えてほしいかどうか、にもよる→名前は必要→名前っていってもどこまで、・・・〉
⇒「~は~です」よりも、名前そのものが大事なんです。
≪コミュニケーションを中心とするこれからの日本語教育≫
・これからの日本語教育では日本語を使う状況そのものから出発し、その状況でどんな能力が必要かを研究して行くことが必要だ
・自己紹介の時に大事なことは、誰に対して、何を覚えてほしいのか。その内容により、学習者に対する教育内容が決まっていく。
〈応用力をつけるためには、やはり基本的な文型などが必要ではありませんか。 → 日本語の文型などがないと応用できないのですか。大学受験のためには本当に「今までやってきた日本語の文型」が必要ですか。そんなことはありませんよね。 → 先生はあらゆる場面を抑えておかないと、応用はできないと考えていますか。 → 応用は必要。ただし、基になるのは文型ではないでしょう。文型を知って入れば応用できる、はウソ…〉
【野田さんからのメッセージ】 その5
「~と申します」この表現のポイントは、「~と申します」は「~です」より丁寧な謙譲語です、ではなく、初対面では使えても、何回もやり取りしている相手には使えない、という点です。
誰に対して何のためにその行為をするのかが大切なんです。
【野田さんからのメッセージ】 その6
配慮したつもりなのにできていない
目上の人に出す依頼メールの冒頭に、友人に対するようなくだけた表現が使われていて、違和感が感じられた。メールの書き手に確認したところ、このくだけた表現の背景には、書き手の「自分らしい暖かい表現を使いたい」という思いがあったことが分かった。書き手は日本語が上手で、相手に配慮しようという気持ちがあったから、却って失敗してしまった。 こんな時は、違和感を感じたら、まず相手の意図を確認して、その先の教育内容を考える必要があります。
≪これからの日本語教育のための3種類の研究≫
1.母語話者の日本語についての研究
2.非母語話者の日本語についての研究
3.日本語の教育方法についての研究。
【締めくくりのメッセージ】
相手をムッとさせないのが、上手なコミュニケーション。そうならないように導くのが教師の役目
全員がコミュニケーションのための日本語の原点に立ち返った、あっという間の2時間でした。
野田さん、ありがとうございました。