私が見た「香港日本語教育事情」~新たな動きとともに~

 

香港日本語教育セミナー(2013.8.10)

香港日本語教育セミナー(2013.8.10)

8月10日、11日と2日間にわたって香港日本語教育セミナーが行われました。今回のセミナーのテーマは「言語活動の向上を目指す統合的なコースデザイン及び教授法」、講師は英国からLydia Moreyさん、日本から私という2人体制での実施でした。香港で「英国の日本語教育について~中等教育段階を中心に~」というお話を伺うことが出来たのは、幸運でした。報告書から得る知識ではなく、実際に現地に行ったり、そこで活躍する方々のお話を直に伺ったりすることがいかに重要を改めて感じさせられた2日間でした。

香港日本語教育研究会のオフィスで(2013.8.9)

香港日本語教育研究会のオフィスで(2013.8.9)

香港の日本語教育を束ねているのは、「香港日本語教育研究会」です。専従スタッフ3名、そしてさまざまな機関の先生方で運営しているこの研究会は、とても活発に活動を行っています。月例会で講演や発表、日本語能力試験の実施、スピーチコンテスト、詩の朗読会の実施等など・・・。その活動の広さには感動!それには、長い歴史があることを事務局のシャノンさんに伺って分かりました。「香港日本語教育研究会」の詳しい情報についてはホームページをご覧ください。http://www.japanese-edu.org.hk/ また、昨年から国際交流基金派遣の上級専門家として活動なさっている宇田川洋子さんの記事も是非お読みください。→

「日本語教育・日本語教育学習事情の変化に応じて」http://www.jpf.go.jp/j/japanese/dispatch/voice/higashi_asia/china/2013/report08.html

 

■香港の日本語教育の大きな変化

まずは、宇田川さんのレポートの一部をご紹介しましょう。

「香港政府による教育制度改革に伴って、大学入試共通試験Hong Kong Diploma of Secondary Educationが導入され、選択科目として日本語の試験も2011年から実施されています。試験は英国の国際試験機関が開発したもので、課題遂行力が重視され、例えば、スピーキングテストには、プレゼンテーションと質疑応答という課題があります。しかし、従来、香港の日本語教育は文法シラバスが主流であるため、先生方にとってこの試験の概念は新しく、教材や教授法についての情報も必要でした。そこで昨年度は、私が前任地英国などで類似の試験に関わった経験を活かし、香港の試験局の協力も得て、シラバスの確認や教材の検討、プレゼンテーション能力を伸ばす教授法などのテーマで研修を実施しました。研修はワークショップ形式で実施し、参加者の先生方には、情報共有や意見交換ができると好評でした。今後は、試験目的以外のコースも考慮し、中学1年からの日本語学習奨励と教員支援を行っていきたいと考えています。」

香港の日本語教育は、ここ数年さまざまな形で変化してきています。その現場に居合わせ、現地で活躍する先生方から直にお話を伺う機会が持てたことは、とても幸運でした。

香港の大学入試共通試験には「話す力」「書く力」を問う試験が入っていることに注目したいと思います。日本語能力試験も以前何度かトライし、現在は進展していない状況ですが、何としてでも実施に向けて舵を切りたいものです。60万人という受験者数では極めて困難であることはよく分かりますが、多様な角度から検討することによって、新たな形態が生み出せるのではないかと考えます。それが教育的波及効果を生み出し、日本語を学ぶ魅力増大にも繋がるのではないでしょうか。

■韓流ブームに押されていても、根強い「日本・日本文化・日本語」への関心

ヴィクトリアピークにあるレストラン「翠華」で見かけました。

ヴィクトリアピークにあるレストラン「翠華」で見かけました。

左の写真をご覧ください。これはヴィクトリア・ピーク(太平山)にあるレストラン「翠華」のスタッフがしていたエプロンです。なんと「時代が変わっても、味は変わらない」と日本語で書かれてあったのです。注文を取りにきたスタッフに写真を撮らせてほしいと尋ねると、即座に快諾。こうして面白い写真を撮ることができました。

香港の先生方は、日本語学習の現況について次のように話してくださいました。

「確かに今、韓流ブームに押されているのは事実です。だから、日本語学習者が減っているのは、入門の人達が多いんですね。韓国ドラマにはまったり、タレントに夢中になったりすることで韓国語に関心を持ち始めていきます。そういう意味では、日本語関係者も日本語・日本の魅力をもっと発信していく必要があると思います。実は、香港の人は、日本、日本語、日本文化が大好きなんです。そのことがもっと日本語を学ぶ人の増加につながるような工夫をしていく必要があると思います」

言葉は文化、文化とはその社会を作り上げている人々の考え方であると言えます。日本語への単なる関心が「日本人の物の考え方、生き方」などへの関心へと広がっていくことで、さらに広がりと深まりが増していきます。また、取り組むべき新たな「課題」が見えてきた香港出張でした。

■持続可能な日本語学習を!~生涯学習としての「日本語の学び」~

今回お話を伺っていて、強く印象に残ったことは、「日本語能力試験N1に合格した人、日本留学を終えて帰って来た人が、さらに日本語力に磨きをかけたり、勉強し続けたいという場合に、学ぶ機会が非常に少ないというお話でした。そうした高い日本語力を持つ人達は、「もっと日本語で話をしたい。もっと日本語・日本を深く知りたい」と思っていても、なかなかチャンスがなく、そのまま年月が過ぎてしまっているそうです。

日本語学習者の裾野を広げることはとても大切なことだと思います。しかし、同時に忘れてならないこととして、日本語・日本が好きで、ずっと学び続けたいと思っている人にどのようなサポートが出来るかということが挙げれられます。この課題は、なかなか表に出てこないこともあり、これまであまり議論されてきませんでした。

日本語を生涯学習として学び続ける人が増えることは、真の日本理解者、日本ファンが安定的に増えていくことに繋がります。では、どんな「仕掛け」をすることで、世界中の「生涯学習として日本語を学ぶ人達」のネットワーク作り、学び場作りが可能になるのでしょうか。今回の香港出張では、「現地の先生方だからこそ見えること」を教えて頂く良い機会となりました。また、たくさんの具体的なヒントも頂くことができました。

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【余談】

ラマダン明けの日曜日(香港)①

ラマダン明けの日曜日「Rosedale Hotel」の前で

今回も、セミナーだけに参加の余裕のない日程でしたが、町の雰囲気・香りを愉しむことができました。8月11日の日曜日は、ちょうどラマダン明けの初めての日曜日。朝早くコンビニに出かけようとホテルを出ると、ホテル前や中央図書館前(コーズウェイベイ)で、たくさんのインドネシアから来たメイドさんが仲間と集い、食事やおしゃべりを愉しんでいる姿を目にしました。こうした集まりは毎週日曜日にあるのだそうですが、この日は特別な日とあって、みんな着飾って集まって来ていました。

また、フィリピンからのメイドさん達は、毎週日曜日、オフィス街のセントラル近くに集まってきます。この日、セミナーが終わり、ちょうどシティーホールのレストランに行く途中、びっくりするほど大勢のフィリピンの人達に出会いました。食事をしたり、トランプをしたり・・・・・・。中には音楽に合わせてダンスをしている人達もいました。食事が終わり9時半すぎに街に出ると、先ほどの騒がしさはどこへやら・・・・・・。人はほとんど見当たらず、たくさんのゴミもすっかりきれいに片づけられていました。

ラマダン明けの日曜日(香港)②

ラマダン明けの日曜日「香港中央図書館」の前で

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