2020年度のイーストウエスト日本語学校の俳句コンテストの結果が発表になりました。選句にご協力くださった皆さま、心より感謝いたします。今回は選句結果に加え、選句を通した台湾で日本語を学んでいる方々との交流活動をご紹介したいと思います。まずは選句用紙をアップし、結果をご報告します。
では、結果発表です。
第1席 2番
空仰ぎ 離れていても 同じ月 (楠迪さん:中国女性)
第2席 5番
夕暮れに 落ち葉見ながら 待ち合わせ(コーネリアスさん:インドネシア男性)
第3席 18番
違う国 母と望むは 同じ月(程婷さん:中国女性)
共感賞 15番
散歩道 光る宝石 紅葉の葉(薛宇呈さん:台湾男性)
ロマンチック賞 12番
すれ違う 紅葉の記憶 風に散れ(崔ゴヤさん:韓国男性)
次に、台湾から頂いた2つの「俳句を通した交流」に関するレポートをご紹介します。
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Ⅰ.澤田尚美さんより
俳句を楽しむ~選句を通した国際交流~
台湾・中国文化大学推広部 澤田尚美
以前、中級の実践で台湾で日本語を勉強している社会人クラスのことについて記事を書かせていただきました。それから1年経った現在も、このクラスの皆さんは日本語の勉強を続けています。「日本語で小説を読んでみたい」という声に応えて、1週間1回、日本語で小説を読むクラスとなりました。今は荻原浩の『海の見える理髪店』を少しずつ読んでいます。難しい!と言いながらも、中国語で読むより小説の雰囲気が味わえると言って、皆さん、楽しんでいるようです。
授業では小説を読むだけではなく、いろいろなものを「日本語で読む」こともしています。同僚の虞安寿美先生から「イーストウエスト校内句会の俳句をクラスで読んでみた」という情報をいただき、そうだ!小説クラスでも俳句を鑑賞してみようと思い立ちました。
実は、このクラスの皆さん、自分で俳句を作った経験があります。『できる日本語中級』の9課「言葉を楽しむ」の【できる!】で俳句作りに挑戦しました。そして、私や周りの人々に選句をお願いして、句会を行ったことがあります。今回は「日本にいる留学生が作った俳句を鑑賞しましょう」といって、俳句を味わうことにしました。すると、俳句を見ながらいろいろなコメントが出てきました。まず、真っ先に
7 菊が咲き 誇る上海 太い蟹
の句が目についたようで、「これは絶対上海の学生が作った俳句です!」の声が笑いとともにあがりました。
クラスでは、まずは一人で20の俳句をじっくり見てもらい、それから、3人グループになって、それぞれの俳句の情景やどんなことを伝えようとしているのかを一緒に鑑賞し、自分がいいと思った俳句を紹介しあってもらいました。
20 風吹いて 尽きない思い 彼岸花
「これはちょっと悲しい俳句ですね」「あ、『彼岸花』」の意味を知っているんですか」「知ってますよー」と、クラスメイト同士でのやり取りがありました。
「先生、この俳句を作ったのは留学生ですか」「はい」「あー、この気持ち、よくわかります」「ああ、張さんも留学していたから」「はい、あのとき、友達が誰もいなかったから、寂しかったです」と、自分のことと重ね合わせて俳句を鑑賞している姿も見られました。グループでの話し合いは10分くらいと思っていたのですが、それぞれの俳句について、これはこんなことを伝えたいんだ、いやいやそれは~と個々人の解釈がやり取りされていて、話し合いの時間を切り上げるのが残念に思われるほどでした。この様子を見ていて、1年前よりも皆さんの日本語力が着実に伸びていることが感じられました。そして何よりもうれしかったのは、ことばに対する感覚が豊かになっていて、俳句に書かれている情景を想像して、楽しんでいる様子でした。
Ⅱ.虞 安寿美さんより
「緊急企画!俳句で国際交流」
(台湾)中国文化大学社会人生涯学習センター、
淡江大学 兼任講師
虞 安寿美
PDF→俳句で国際交流体験(虞安寿美)
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嶋田先生のFacebookで、毎年恒例のイーストウエスト日本語学校の俳句大会のことを知りました。11月末、日本語学習者のみなさんにも投票してもらおうと思い立ち、社会人学習者のクラスと、大学三年生の作文クラスで「緊急企画!俳句で国際交流」と題して投票会を行いました。
まず、社会人クラス。主に主婦が多いクラスで、日本語が大好きで私と一緒に7年も勉強を続けています。話すことは苦手ですが、日本語の文章を読んだり日本語を聞いたりするのはかなりの腕前です。実は約3年前、「できる日本語中級 第9課」を勉強したときに俳句に触れたのですが、その当時は新しい単語や文法を頭に入れるのが精一杯だったようで、あまり盛り上がりませんでした(私の力不足で俳句の良さを伝えられませんでした…)。そして、もう一つの大学三年生の作文クラスのほうはというと、やはり日本語学科の学生だけあって、俳句についても多少他の授業で習っていました。でも、俳句を楽しむことまではなかったようです。
俳句のプリントを配り、「これ、誰が書いたと思いますか」の質問からスタートすると、ある学生が「イーストウエスト日本語学校・・・日本の学生?」と気づきました。そこですかさず、「みんなと同じように、日本語を勉強している人たちです。今年の10月から勉強している人も参加したそうですよ」というと、「ええええええ!」と大歓声が上がりました。当然そうなりますよね。五・七・五で風景や気持ちを表すことができているんですから。
俳句の基本ルールを復習し、植物についてはインターネットの写真を見せて理解してもらいました。その後、小グループに分かれて、学生たちはGoogle翻訳やスマホの辞書アプリと格闘しながら、自分たちで読み進めました。熱心に読んでいる姿を見て、私から「この中の二人は、どういう関係?」とか「ここにある“落ち葉”って、何色だろう」とか質問をしたり、「破蓮」は私も知らない季語でしたので(俳句は(も)不勉強で…)、学生たちと一緒に「たぶん、こういうことじゃない?」と、俳句の世界をあーでもないこーでもないと想像し合いました。文字通りにしか捉えることができない学生たちにとって、俳句を読む活動を通して、表現の豊かさや文字の間に隠れる風景や気持ちを読み取るいい機会となりました。このような体験は教科書を読んだりニュースの記事を読んだりするだけではなかなかできませんし、書き手の心を汲み取ろうとする姿は、「勉強」という枠を超えた学習だったのではないかと思います。また、私は、「教えない授業」、「問い」から広がる授業に一歩進めたのではないかと思っています。
私はこの俳句を読んでいる時間も感動しきりだったのですが、さらなる感動が押し寄せたのは、学生たちが書いたコメントを読んだ時でした。ある学生は、花言葉を調べ、そこから俳句の世界を深く知ろうとしていました。ある学生はイーストウエスト日本語学校の学生さんと同じように故郷の家族を思い、またある学生は唐詩と同じ風景だと気づいたり、五・七・五の究極のミニマルな世界がこんなにも大きな世界を作り出すのかと感動しました。
今回、俳句の世界を通じて、「ことば」の学習とは何かということを改めて考えさせられました。そして、日本語が共通語となって繋がる機会を得たことに非常に感謝しています。今度は「俳句作り」に学生たちとチャレンジしたいと思います。そのときはぜひ、世界中からコメントをお寄せいただければ幸いです。
学生のコメントを紹介します。