海外だより<コロナ禍に向き合う>第13回「英国中等教育スピーチコンテスト」を通して」(穴井宰子さん:2020.7作成)

 

海外だより<コロナ禍に向き合う>第13回

「英国中等教育スピーチコンテスト を通して」

    2020年7月 穴井宰子さん

 

 

新型コロナウイルス感染症の拡大による影響は世界中に広がっています。   

それぞれの国・地域では取り組み方も違えば、人々の行動の仕方も違います。   

そこで、海外で暮らし活動をしていらっしゃる方々から、「現状、取り組み方、

特長など」について伝えていただきたいと考えました。

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<コロナ禍に向き合う>

「英国中等教育スピーチコンテスト  」

   2020年7月 穴井宰子さん

       PDF→ コロナ禍に向き合う<イギリスより>

  スピーチコンテストのプログラム → →nc2020_programme_2506

英国の中高校生ためのスピーチコンテスト「日本語カップ」は2001年に始まった中学7年生から高校13年生まで、英国で日本語を外国語として学習している生徒のためのスピーチコンテストです。日本語を習い始めたKey Stage 3中学生、中等終了試験GCSE受験前の生徒、中等終了試験GCSE受験後の生徒の3つのカテゴリーでスピーチを競います。毎年3月に応募締め切り、6月に決勝大会を行ってきました。2020年は新型コロナウィルス・パンデミックという非常事態の中で初めてのオンライン決勝大会を開催しました。英国のコロナ・パンデミックの状況と合わせて、実行委員会でどのように「日本語カップ2020決勝大会」の開催に臨んだかを報告いたします。

 

 

3月末〜4月

 

英国では2月までは新型コロナウィルスは他の国の出来事と対岸の火事のように呑気に構えていましたが、3月に入り様子が徐々に変わってきました。チェルトナムの競馬大会は決行されたものの、3月の第2週になると学校の休校は時間の問題となり、色々な行事が相次いで開催中止になりはじめました。3月20日の締め切りを目前に日本語カップはどうなるのとの問い合わせ、すでに中止されたと思い込んだようなメールが行き交いました。すでに応募に向けてスピーチ準備したり録音したりした生徒たちの努力を無駄にはしたくないという気持ちから「We can’t promise anything about the Final contest in June. It will be informed shortly. However, any entries made will be listened and acknowledged. 今の段階では決勝大会については何の約束もできないけれど、近日中には対応をおしらせします。応募されたスピーチは全て聞いてご返答いたします。」と添えて応募を予定通り受け付けると発表しました。

 

 

実は、この段階ではまだ実行委員会は、コロナのこともコンテストについても一体どうなるのか全く先の見当はついていないのでした。奇しくもその20日に英国の学校は休校開始。中等高等教育終了試験GCSEやGCE等の試験も全て中止となりました。日本語カップには最終的に17校から75名が応募しました。

 

 

その翌週、スーパーの棚はパニック買いで空っぽになり、24日Stay Home、Protect NHS、Save Livesのスローガンの元に英国もロックダウンに入りました。外出は最低限の食料品と医療品の買い物のみで、運動は1日1回のみ許可されました。

 

 

日本語カップは中等教育の先生が中心となりボランティアで組んでいる実行委員会と国際交流基金の共催事業です。中等教育の先生方は学校休校とGCSE・GCE試験中止の対策に追われ始めました。オンライン授業も始まりました。日本語のGCSE試験がなくなってしまった生徒たちに励みをあたえるためにも、なんらか形で決勝大会をできないのか?とメールが行き交い、24日にZoom会議が開かれました。中学生、高校生のコンテストですから、コンテスト出場者は未成年です。オンラインと言っても生でライブストリームで開催するというわけにはいきません。

1次予選通過の決勝出場者のスピーチ録画を提出してもらい、審査して結果を発表すると最も無難な選択肢もありました。しかし、学校のクラスメートや先生そのほかの聴衆を前にしてスピーチを聞いてもらうというのが決勝大会の真髄です。なんとかしていつもと同じくらいの数の人にそれぞれのスピーチを聞いてもらう機会を与えるためにZoomによるオンライン決勝を選択したのでした。この形でオンライン開催を実行するには応募した学校の校長先生に連絡して了承を得なければなりません。スピーチはビデオ録画、参加者限定のオンライン開催という条件でオンライン大会が決定しました。

 

 

オンライン開催と決めたものの、実は一体どういう風になるのかは、まだ誰にもその内容は分かっていなかったのでした。その時、3月30日にカナダの大学生のスピーチコンテストがオンラインで開催されたニュースが入ってきました。国際交流基金のカナダのアドバイザー村上先生は皆さんご存知のオンライン教育の第1人者、4月8日にはその村上先生を交えてオンラインコンテストの方法についてのZoom会議を持つことができました。実際にどのようなことが必要なのか、テクニカル面、コミニュケーション面から村上先生が説明してくださりましたが、実行委員会は安心と不安が半々の気持ちで改めて決勝大会へ向けての決意を固めたのでした。大げさのように聞こえるかもしれませんが、オンライン授業やオンライン学習はまだまだ多くの先生方にはなれないことで、コロナ禍により模索しながら取り組んでいる方がほとんどというのが実態だったのです。

とにもかくにも、一息ついて5月に決勝出場者を発表するために、実行委員会では第一次予選スクリーニングを開始しました。

 

 

英国では、3月から4月にかけて感染者は増え続け、ジョンソン首相も一時入院ICUへという事態になりました。3月26日、Clap for Carersという週1回の行事が始まりました。毎週木曜夜8時に家の玄関、庭先でNHSやロックダウン中も働いているいわゆるキーワーカーの人たちに感謝の拍手を送るイベントです。鐘を鳴らしたり、お鍋を叩いて音を出している人もいました。近所の人と垣根越しや道を隔てて拍手を送るこのイベントはロックダウン中続きました。1

 

4月5日にはエリザベス女王が国民へメッセージを送り、英国国民は一つになってコロナに向かっているようでした。明るいニュースもありました。退役軍人のトム・モーアさんが100歳の誕生日に向けて自宅の庭を100往復歩き

NHS National Health Serviceイギリスの国営医療事業)のために募金を募ったのです。キャプテン・トムの愛称で親しまれ、なんと32億ポンド以上の募金が集まりました。(キャプテン・トムは先日エリザベス女王よりナイトの称号を贈られました。)

そして4月30日、ジョンソン首相は「ピークはすぎた」と談話しました。

 

 

5月

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5月に入り、ロックダウンは続いてはいましたが、緩和へ向けてロードマップ発表。イギリスらしいのはまずガーデンセンターが開いたことです。また同居家族以外と屋外で2mのソーシャルディスタンスを取って会うことが許可されるようになりました。

 

5月に入り各カテゴリー6名の決勝出場者が決定しました。学校に通知したところ、一校より学部長がとても喜ばれ、早速学校のウェブサイトに記事を載せたという嬉しい返事が届きました。明るいニュースが望まれていたのです。

https://www.wolfreton.co.uk/news/?pid=3&nid=1&storyid=214

 

オンライン決勝大会がだんだんと現実の形となって見え始めてきました。決勝出場者は各自がスピーチを録音して送る。Post-GCSEカテゴリーは質疑応答があるので質問者が連絡を取り同じ日に事前録音する。オンライン決勝大会の参加者は出場者と学校の先生や友達に限定しセキュリティのために事前登録制などなど。録音はスマホを縦にするのか横にするのか、録音の背景は、大きさはなどなど、いろいろな質問が出てきました。また、オンラインとなると今まではロンドンやオックスフォードの会場まで引率の先生が2名だった学校が、自宅から参加できるのなら他の先生がたも是非というリクエストや、決勝に進出できなかった学校の先生もオンラインなら見学したいという問い合わせも出てきました。

テクニカルチームは国際交流基金の堀江アドバイザーが中心となってオーガナイズしてくださいましたが、英国の日本語教育学会(BATJ)の先生方がサポート参加してくださいました。BATJはロックダウン中にオンライン授業支援のセミナーを多く開催していて、Zoomに慣れていらっしゃるとのこと、快く引き受けてくださいました。

 

コロナ禍で「いつも」がどんどんなくなっていく中、オンライン決勝でも、できるだけ通常大会と同じことを同じようにやろうというのが私たちの方針でした。スピーチのサマリーを載せたプログラムも作成、PDFで配布し、休憩時間(=審査中)のアトラクションも例年通りに組みました。

 

 

6月

6月になると厳しかったロックダウンが緩和されて始めました。ニューノーマルと言われ、全くの元にもどるわけではないけれど、少しずつ日常が動き始めました。

1日     部分的に小学校が開校。3

6人までなら屋外での集まり(例バーベキュー)が許可。

13日    ソーシャルバブル可能に。 一人世帯の人は他の世帯の人たちとあって宿泊できる。

15日 衣料品店他の店の開業。公共交通機関ではマスク着想義務化。

ニュース「マスクツリー 」の事が取り上げられていました。

手作り布マスクを作って、必要な人はもらえる。お値段は寄付。

材料代とか材料になりそうな布やゴム紐などを支払うのもOK。

ツリーにはいろいろなものを利用。あっという間に地域で広がったそうです。

 

 

19日 アラートレベル4に下がる。

 

日本語カップでは決勝大会を27日に控え、6月6日に予行練習を行いました。予行をやってみると次々と新たな課題が出てきます。ここは一つ一つクリアしていくしかないと臨んだ次第です。大学で日本語を専攻し日本留学中に趣味で尺八を始めたジェイムスさんから、BBCヤングミュージシャン 2020年のパーカッションフィナリストのアイザックス君(16歳)のパーカッション演奏の録画が届くと、多くの方々の支援でコンテストが形作られていくのが実感できました。また、過去の日本語カップ出場者で3位入賞しその後オックスフォード大学で学び、現在は日本企業で日本勤務というローソン君が出場者に激励のメッセージを英語の字幕付きで日本語で送ってくれたのです。(ローソン君は「ほんまにローソン」というyoutubeのチャンネルを持っています。https://twitter.com/Honmanilawson

さらにZoomに慣れていない参加者のための練習日も設けました。

尺八:ジェイムズ・ロングさん  パーカッション:ルイス健太郎・アイザックス君

尺八:ジェイムズ・ロングさん/パーカッション:ルイス健太郎・アイザックス君

 

 

いよいよ27日の当日がやってきました。前日の夜になって出場者のZoom登録もれなど、ヒヤリとすることもありましたが、当日は10時から打ち合わせ、12時になる前から次々に参加者がログインし始めました。12時半の開会式までまだ時間があります。実行委員の一人が急遽バイオリンを持ち出して、即興。日本の曲を引いたり説明したりして繋いでくれました。

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危惧していたネット接続不良もなく、始まってしまうと、あっという間でした。

出場者はスピーチはビデオ録画で事前に送っていましたが、この決勝大会には、家族と、友達と、先生達とZOOMで参加しました。生徒たちも徴収ではなくカメラに向かってのスピーチには戸惑いもあったことでしょう。それでも一生けん命に練習した成果を十分に発揮してくれました。事後アンケートでも「録画」とはいえ、よく準備していて聴衆を意識したスピーチだったので、ライブのような新鮮さを感じました。」というコメントいただきました。

 

4表彰式前の休憩時間、恒例のラジオ体操です。3時間近く画面に釘付けの皆さん、一息入れて、入賞者の発表です。

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クローズアップで入賞者が映し出され、それぞれの喜ぶ姿に例年と同じような感激がありました。

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このオンライン決勝大会は、協力、繋がりとネットワークなしではとても開催はできませんでした。初めから最後まで一度も顔合わせをすることなくメールとズームでのやりとりでしたが、実行委員会はこれまで以上にお互いを身近に感じた大会でした。

 

 

 

 

 

7月

 

7月に入り4日、パブやレストランが営業を再開し始めました。

24日からは店内ではマスク着用が義務となります。博物館や美術館も月末には開館します。来年の6月には世界でコロナ・パンデミックはどうなっているのか? 私たちはニューノーマルに馴染んでいるのか?

まだ何もわかりません。

でも、中高生たちが、日本語で自分の意見や思いをスピーチにして発表する「日本語カップ」は2021年も開催します。

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参考リンク

http://japanese4schools.co.uk/2014/11/05/speech-contest/

 

 

 

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