<著者との対話>報告記事『にほんご会話上手!』(10.8実施)

話をする岩田さん

10月8日、岩田夏穂さんと初鹿野阿れさんによる<著者との対話>が行われました。初鹿野さんは、お住まいは名古屋、しかも当日は、出張先の北海道から駆けつけてくださいました。終わって参加者と喫茶店へ繰り出し、またまた話に花が咲きました。そして、今回の報告記事は、この企画を提案してくださった梅村弥生さんにお願いいたしました。それでは、梅村さんの報告記事をお楽しみください。

♪    ♪    ♪    ♪    ♪

<著者との対話>報告記事(10.8実施)  報告者:梅村弥生(イーストウエスト日本語学校非常勤)

『にほんご会話上手! 聞き上手・話し上手になるコミュニケーションのコツ55』      

はじめに

10月8日(月)連休の最後の日でしたが,20人近くが集まり,いつものようにテーブルは一杯になりました。日頃から学習者の会話力アップに悩む先生達(?)が集まったという感じで,今日の集まりから具体的なヒントが得られれば,明日からでも教室で使いたいといった勢いでした。著者のお二人には,分かり易くテキストを解説して頂きました。その合間に,参加者はテキストを実際に使って「目からウロコ」の体験をし,グループディスカッションを2回,そして最後に全体共有の時間を頂き,全員が忌憚なく意見を言い合えた充実の2時間でした。

話をする初鹿野さん

話をする初鹿野さん

コンセプトはインターラクション

最初に著者のお一人である岩田さんが,この本のコンセプトがインターラクションにあることを説明されました。ここで目的としている会話力のアップとは,相手とのインターラクションをスムーズに行い,気分良く会話を進めて,しかも内容を深めることができるようになるというものです。このあたりまでは,どの会話テキストでも謳われていることですが,会話を楽しみ,深めるための具体的な訓練のポイントが,他のテキストとは異なるものでした。それは,(1)母語の知識を活かし,(2)いい聞き手になり,(3)話の流れを上手くコントロールできるようになることだとし,テキストは,この3点をポイントにして,15のテーマで,学習者が繰り返しできるように作られています。

3つのうち,特に「母語の知識を活かす」の点で首をかしげる参加者がいましたが,これら3つのポイントの背景には,「会話分析」の考え方があると言うことで,次に「会話分析」についてお話しを伺いました。

会話分析の知見を活かした教材

 テキストには,各ユニットの冒頭に話の例が載っていて,そこには「自分ばかり話す人」や「予告なしにいきなり話題に入る人」など,ちょっと困った者が登場します。そして,「困った話者」はどうすれば良いか,学習者に問いかけています。このとき,「あなたの母語で話すときのことを考えてください」と指示し,自分が母語で話すとき何をしていたかを考えるように促しています。これが,先の「母語の知識を活かす」に相当します。

初鹿野さんは,会話の事例を使って,次のように会話分析を説明されました。私たちの会話には,話者交替システムや,優先性の構造,隣接ペアといったさまざまなルールや規範があります。そして,私たちは,このルールや規範をもとに自分たちの会話を秩序だったものとして組織しています。会話分析は,そのルールや基本,会話者のやり方を通して記述していく研究です。そして各ユニットの導入部分で取り上げている問題は、このルールや規範に関する問題なのです。

出版のプロセスを説明する天谷社長

出版のプロセスを説明する天谷社長

「母語の知識を活かす」について

最後に,このテキストについての感想や質問を全体で述べ合い,互いの意見を共有しました。そこでは,このテキストのキーポイントである「母語の知識を活かす」に議論が集中しました。

日本の会社で働く中国人のビジネスマンが自分の成果を強調するパワポを作って,却って社内の共感を得られなかった事例や,英会話を勉強したとき,「日本語を忘れて英語で考えろ」と言われたなどの事例が参加者から挙げられ,「母語の知識を活かす」ことによって,マイナスの効果にならないかという議論になりました。著者は,「母語の知識を活かす」ことは「母語と同じ」ようにすることではなく,むしろ「母語ではどうか」と考えることだと説明しました。学習者は母語と日本語を比較し,両者を相対化し,母語と日本語の会話のやり方の違いと共通点に気づくことによって,日本語でどのように話したらいいか学ぶので,そのプロセスが「母語の知識を活かす」学びだと答えられました。

テキストで挙げられた会話には,最後吹き出したくなるようなオチが付いていたり,また「親の病気」や「試験の結果」など現実的な話題が取り上げられている点で,学習者が退屈しないで取り組めるという評価が為されました。先生方は,学習者のレベルが合えば,クラスで使ってみたいというご様子でした。

まずは名刺交換を・・・

まずは名刺交換を・・・

アクラスの「著者との対話」では,参加者からの意見を皆で議論し合えるだけでなく,話し合いの過程で著者からも深い話飛び出し,互いが学び合えるといった喜びを体験できます。今回も,特に「母語の知識を活かす」という母語の知識を生かすという考え方に触れ,お互いの経験や意見を交えながら貴重な学びを得ることができたのは,私だけではないと思います。

岩田さんと初鹿野さん,お忙しいなか本当にありがとうございました。最後になりましたが,アスク出版の天谷社長もご同席下さいました。御用のため途中にてお帰りになりましたが,グループディスカッションにも入って下さり,テキストのコンセプトや出版の経過について熱く語って下さいました。ありがとうございました。

著者の説明を聞く参加者

著者の説明を聞く参加者

Comments are closed.