アクラス6月研修報告レポート(「日本語教師が知っておきたい日本語教育政策」講師:岡本能里子)

 6月のアクラス研修「日本語教師が知っておきたい日本語教育政策」の報告レポートです。現場教師も教室の中にばかり目を向けるのではなく、広い視野に立って、日本語教育を考える必要があることを、日本語教育政策を取り上げて分かりやすいお話しくださいました。今回の報告者は、磯部美奈さん(イーストウエスト日本語学校)です。
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当日使用したパワーポイント➡☆アクラス研修6月23日
                                                                                
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 「日本語教師が知っておきたい日本語教育政策~日本語教師の専門性の視点から考える」
    報告:磯部 美奈(イーストウエスト日本語学校非常勤講師)

今回の研修会は、「日本語教師が知っておきたい日本語教育政策」というテーマで、東京国際大学教授の岡本能里子先生にお話を伺いました。

講師の岡本能里子さん

講師の岡本能里子さん

岡本先生は、日本言語政策学会の副会長も務めていらっしゃって、まさに言語政策の先端でご活躍されています。今回の研修は、ご自身の活動の中で持たれた、現在の政策の問題点を参加者と共有し、それについて「楽しく」考えたい、という言葉でスタートしました。

 

2時間の研修を通して岡本先生が繰り返しおっしゃって強調していたのが、

 

①言語教育は、人と人をつないで、社会をつくる。

それは一生続くものだ(生涯教育という考え)。

②これからの言語政策のために、現場に立つ教師が、

それぞれの場所(地域ボランティア、日本語学校、大学、…)から意見を出していくべきだ。

 

ということでした。

①の考えが大切になってくるのは、特に日本語指導が必要な年少者の受け入れが十分にできていない現状が問題になっているからだそうです。

この問題に関しては、「特別の教育課程」が小中学校向けに作られ、いわゆる取り出し授業のような指導も学校の教育課程と位置づけられましたが、実際には2割程度の学校でしか導入されていないそうです。導入が進まない理由は、まず、「特別な教育課程」が平成26年1月に公布され4月から実施ということで、準備が非常に短かったことで現場が戸惑ってしまったこと、そしてもう1つは「特別な教育課程」に対応できる指導者がいないことだそうです。実際、教員免許の更新講習で岡本先生が会った小中学校の先生の中でも、国際理解教育ということに関しては反応にバラつきがあったそうです。

 

小中学校での日本語指導の難しさは、母語もしっかり形成されていない子どもが対象であることだと、岡本先生はおっしゃっていまし参加者からの意見①た。それが、岡本先生が①を強くおっしゃっていた1つの理由でもありました。

 

言語は学び続けるものなので、「日本語だけ」を見るのではなく、子どもが持っている「言語のバラエティ」を活かして日本語指導をしていくにはどうしたらいいか、そしてライフコースの変化や、キャリアとして、全体としてとらえていかなければならない、と、力強くお話してくださいました。

 

また、久里浜少年院に入所している若者の半分が今や外国籍だという現状も紹介され、犯罪に手を染める外国人児童生徒を減らすために、日本語教育が小中学校でできることもあるのでは、とも、お話がありました。

義務教育ではない児童生徒に、居場所を与えることの大切さも、よくわかりました。

 

①についてはもう1つ、「日本語パートナー」の制度も紹介されました。「日本のファンを増やす」というのが外務省の売り込みですが、受益者は誰か、海外青年協力隊との違いは何か、日本語教育専門ではないが活動の中でどのような位置づけになっているか、など、

2020年まで派遣が続く活動で、まだ明確になっていない部分が明らかにされました。その上で岡本先生が、派遣された人が教える・伝える立場で行くのではなく、その人がむしろ

派遣先の国を好きになることが大切、とおっしゃっていたのが印象的でした。

 

②は、今回の研修で実際に参加者全員で一緒に考えたい、と初めに先生がおっしゃっていたことでもありました。(時間の都合で意見交換参加者からの意見②まではできませんでした…残念!)

 

最新情報がつい先日(2017年6月)に出たばかりの「日本語教育推進法」は、多くの省庁・機関が関わって作られていて、その中で日本語教育学会もヒアリングを受けています。学会の研究や実態の蓄積があり、その他の機関から期待もされているそうです。

 

しかし、驚いたことに、そのヒアリングの内容は、議事録に残っているだけで、報告書には入っていません。専門家の意見が政策に十分に反映されていないのが現状だそうです。

だから、もっともっと現場から意見を言っていこう!というのが岡本先生の主張でもありました。

 

EPAについても、経済産業省が主体で動いており、経済的な駆け引きがあっての制度で、対象者選定や学習者調査、教材開発の分野でまだまだ日本語教育の介入していかなければならない場面がたくさんある、とおっしゃっていました。

 

これらの課題について考えた後、2つの教材の紹介がありました。

1つ目は、先述の「特別な教育課程」で日本語能力測定に使用される「DLA:外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメント」の絵カー真剣にメモを取る参加者ドです。その絵カードは、いかに絵の中に文化的な要素が入っているか、気づかせるものでした。(例えば、地震の揺れを絵で表すラインなど)

岡本先生も、絵が障壁になってしまったエピソードがあって、それはモンゴルで4コママンガのオチを書かせる活動をした時だったそうです。コマの中にあった、モニターの前に座る人物とその横の「ピコピコ」という文字=ゲームをしているという状況がわからず、さらに、玄関で靴を脱ぐお父さんの絵は、外で酔っ払った人だと思った(モンゴルでは家に入る時に靴を脱ぐ習慣がない)ため、1本の話につなげることができなかったのです。

また、いくつかの絵があって、そのグループが何のグループか答えるという問いには語彙、分け方ともに文化的な要素が含まれている、という例も紹介されました。

例えば桜という語彙も、日本的なものと並べて、「日本の特別な花」として扱うか、

植物、春、そして日本では特別というように視野を広げる扱い方をするかで、学習者の参加の仕方が変えられる、と岡本先生。後者の方法で扱えば、それから、学習者の国ではどうか、どんな花があるか、など、学習者の背景を活かして、主体的に学べる活動になるのでは、と続けられました。

もう1つは、岡本先生が開発に携わった『多言語多文化教育教材』の紹介でした。

27言語で詩の朗読が聴けるなど、外国籍の子どもが活躍したり、言語と文化がつながっていることを発見したりできる内容になっている教材です。

4つの文字で書き分ける、縦書き・横書きどちらもできる、という日本語の特性を、伝統文化とは違う観点でとらえる例として、「ふわふわのセーター」の「ふわふわ」や、「シャキシャキのキャベツの「シャキシャキ」は、ひらがな/カタカナどちらで書くか、また、ペットボトルのお茶のラベルになぜ縦書きと横書きがあるのか、2つの問いがあげられました。

最後に参加者の中から2名の方が今日の内容を聞いて、意見を発表されました。

そして、全員が、「今日学んだこと」を一言ずつ発表して、お開きとなりました。

社会をつくる言語教育の未来のために、日本語教育に携わるみんなで意見を出し合い、

協力していきましょう、という岡本先生の熱いメッセージがこもったあっという間の2時間でした。懇親会

 

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