10月研修の報告レポート:「ベトナム人学習者のための日本語教育」(講師:松田真希子)

12月のアクラス研修『ベトナム語母語話者のための日本語教育』に関する報告レポートです。今回は、Jプレゼンスアカデミー非常勤講師の豊泉信子さんが書いてくださいました。ベトナム語母語話者の急増により、課題を抱えた教育現場が増えています。ぜひ参考になさってください。講師の松田さんが当日使われたパワポだけではなく、「漢越語一覧表」もダウンロードできます。どうぞご活用ください。

 

当日使用したパワーポイント ➡  パワーポイント「ベトナム人学習者のための日本語教育」

 

漢越語一覧表 ➡ 辞書データ

 

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『ベトナム語母語話者のための日本語教育』

『ベトナム語母語話者のための日本語教育』

 

 

アクラス研修会報告書         

豊泉信子 (Jプレゼンスアカデミー 非常勤講師)

 

10月22日(木)、金沢大学の松田真希子先生をお招きして、「ベトナム人学習者のための日本語教育」について、アクラス研修会が行われました。

この研修会は、HPでUPされるや否やすぐいっぱいになってしまうほどの人気で、現在、大学や日本語学校でベトナム人に日本語を教えていらっしゃる先生方20名が参加しました。そのご報告をします。

 

研修は、松田先生のご著書『ベトナム語母語話者のための日本語教育』にそって、ベトナム人を取り巻く現状についてお話しいただいた後、なぜベトナム人の日本語学習は大変なのか、実際に音声を聞いたり、漢越語のタスクなどをしながら、その要因の1つである言語の特性についてお話いただきました。

 

 

講師の松田真希子さん

講師の松田真希子さん

1.ベトナム人の学習者の問題点は何か(ご参加の先生方より)

*文法の理解が遅く、習得に時間がかかる。

*日本語の発音が難しい。

*学習するスタイルが違う。―・ノートを取らない

・楽しいものだけに興味を示す

・受け身の人が多い

・わかっているのかわからないのか、わからない

 

 

今回の研修に参加する動機でもあるので、各グループで色々な意見が出されました。

 

 

2.ベトナム人を取り巻く現状

現在、ベトナム人の学習者は、日本の留学生数で第2位、技能実習生では第1位(2016年1-4月)と、急増している。お金を稼ぐために日本語を学ぶベトナム人が多い。

 

 

3.ベトナム人の日本語学習のコストを上げる要因 

 

松田先生のpoint→ 

タイ人と中国人の問題をどちらも持つのがベトナム人では?

(1)言語特性上の問題 → 後述

 

(2)学習者要因

熱心に話を聴く参加者

熱心に話を聴く参加者

*て形で何でもつないでしまったり、正確さに対する意識が低い

*目先の目標のみで長期的な目標がない

*自分で学習する能力が低く「わかりました!」「やります!」と言ってやらない

*外国語学習に慣れていない学習者が多く、初めての外国語が日本語だと、大変。

 

 

(3)社会的背景の問題

*生活が苦しく、余裕がない

*お金を稼ぎに日本に来ている

*人生やキャリアに対する長期の展望がないので、日本語がそこにリンクしない

 

松田先生のpoint→ 

イベントやコンテスト、ボランティアに参加するなど、活動型の教室運営で、仲間と楽しく勉強する場所を作っていきましょう!

 

 

4.ベトナム語の言語特性上の問題

文法、語彙、音声などについてのベトナム語の特性とそこからくる問題点についてお話いただきました。 (ベトナム人N2合格者の傾向は、言語知識で点を取るが、読解と聴解は苦手である)

 

(1)文法面 

話をする松田さん

話をする松田さん

*基本語順はSVOで後置修

 私 食べる りんご 日本

(タイ語と同じ)

*語形変化を持たないため、語順の制約が強い

 

*名詞句 「の」相当語の使用範囲が狭いため、語順の逆転、脱落、過剰などの誤用が多いが、習熟度が上がるにつれ、減少する

 

松田先生のpoint 

ベトナム語は日本語から文法的に遠く、難しいため、日本語教育文法と文法教育デザインの再検討が必要である

 

(2)語彙

*JLT4級語彙については、日越の一致度は低い

*JLT1級、2級の語彙については、6割以上が一致、あるいは部分一致

注意 ⇄ Chú ý

*学術用語はかなりの一致が見られる

 

松田先生のpoint 

漢越語には重なりとズレがあるが、語彙全体で1/4程度に一致か部分一致が見られるので、レベルが上がると、日本の漢字の類推力や語彙習得にプラスになり、漢越語をいれた方が学習の助けになる。

 

   完全一致語のリストがある。

お茶を飲みながら……

お茶を飲みながら……

 

ここで、日本語とベトナム語を対照した表を見て記憶するタスクにトライしました。やはり、漢越語が学習の助けになることを実感しました。

 

(3)談話 

*指示語の使用が少なく、結束性を下げる

*「のだ」の使用が少ない

*上級レベルに文型のバリエーションが少ない

 

松田先生のpoint 

結束性が弱いため、単文を大量に発生させる。

ベトナム語が孤立語であることが影響し、綺麗に並べようと、間違うと戻って何度も言い直ししてしまうことが多い。(中国語に似ている)

 

(4)音声・アクセント・リズム

聴覚印象調査では、自然さ、印象の良さ、アクセント、イントネーション、リズムなど、全ての点で、他の母語話者よりもポイントが低くなっている。

 

*CVC(閉音節)構造のため、早口になり、焦って話しているような感じになる。

*シャ行音の直音化(ベル 喋る)、サ・ザ行直音の拗音化(アナウンシャ)、

チャ行音の直音化 (イ 注意)、ダ行とラ行の交替(ブレタ ラブレター)が起こる

*全体的に高く平らに発音する

*日本語の1モーラをベトナム語の1音節に当てはめようとする

あー やー まー リー 

*咽頭の緊張がある(声門閉鎖)

わたしは だいがくに いきます)

松田先生のpoint 

階段を使って、「グリコ。。。」の遊びで、一つ一つ言わせる練習をして見たらどうか?

モーラを等間隔にゆっくりと発話する癖をつけてもらう

カラオケ好きやおしゃれな学習者の方が発音がいいのは、モニター力が働くから?!

 

5.まとめ

ベトナム語は語彙的に日本語と近接性のある言語であるが、文法面、音声面での隔たりがあまりに大きいので、習得に時間がかかる。

 

初級では、音声面、文法面の問題から、他の母語話者よりも習得に時間がかかるが(通常の2倍程度)、漢語の共有知識が活性化される中級以降では、伸びが早まる可能性がある。

 

 

6.終わりに

ベトナム人学習者を教えていて、頭の中に生まれていた推論が、松田先生のお話で理論化され、すっきりと納得して、研修を終わることができました。「おもしろかった!」というお声がいっぱいでした。松田先生、嶋田先生、ベトナム人学習者が急増している今、まさに必要としているタイムリーな学びをありがとうございました。

「ベトナム人と共に学び、一緒に頑張りましょう」という先生の言葉を胸に、これからも頑張っていきます。

懇親会

懇親会

7 Responses

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  1. ベトナム人学習者が持つ学習上の問題について、詳細な情報を知ることが出来ました。ありがとうございます。今回は研究会には参加できませんでしたが、もしも次にチャンスがあれば、参加させていただきたいと願っております。宜しくお願い申し上げます。

    1. 吉田さん、必要な情報が得られて良かったですね。お時間がうまく合えば、研修にご参加ください。その場での「化学反応」も楽しみの一つです。

  2. 資料の共有、ありがとうございます。ベトナム人学習者が圧倒的の多いわが町の日本語教室です。支援者同士で大いに参考にさせていただきます。

    1. 杉原さん、コメントをありがとうございました。こうした資料の共有を許可してくださる講師に感謝です。

  3. 学校派遣で中学3年生のベトナム人女子を教えて1年になります。初めてのベトナム人、情報もなく、
    ベトナム人学習者の特徴を彼女自身の能力、環境と捉えていました。今回のレポートで指導方法のヒントを頂き、また彼女も努力し、進歩していることもわかりました。このレポートを学校の先生達にも読んで頂きたいと思いました。

    1. アクラス研修の報告が、こうした形で実践に生かされていることを伺い、とてもうれしく思います。様々な情報の共有の重要性を改めて感じています。ご報告、ありがとうございました。

  4. (2)語彙についての内容を読んで、目からウロコでした!今ベトナムの人(初中級二人)を担当していますが、以前「注意」はベトナム語と同じだと聞いたことがあり、びっくりしたことを思い出しました。先日、漢越語のリストを少し見せて、レベルが上がると語彙習得が楽になるとの情報を伝えました。それから、更に漢字の勉強に弾みがついたようです。貴重な情報ありがとうございました。

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