「函館日本語教育研究会」~「学び合い&実践の共有」をめざして~

4月19日、函館日本語教育研究会(JTS)主催の「日本語教育セミナー」のため、函館を訪れました。タイトルは「教科書が変わると、教師が変わる。教師が変わると、学習者が変わる」、参加者はJTS会員、これから日本語教育・支援を始めようという人、大学生、そして高校生9人という多様なメンバーでした。参加した高校生が通う学校では、社会勉強の一環としてさまざまな講座やセミナーを経験し、大学進学や将来の職業選択に活かすことを高校生に勧めているそうです。

JTSの執行部のみなさんと2014.4.19

JTSの執行部のみなさんと2014.4.19

 

セミナーの前に少し時間があったお陰で、JTSの歴史・活動を伺い、また、土曜日にやっている「日本語サロン」を見学させていただくことができました。皆さんのお話の中から、私はJTS設立の経緯、チームの作り方、ネットワーク構築の見事さに感心し、この団体の活動を発信したいと考えました。

 

■スタートは、「みんなで学びたい!」という思い

1989年のことでした。「北海道国際交流センター(HIF)」が実施した日本語教育関連の講座に、何人もの人が参加しました。講座終了後、「もっと勉強したいけれど、函館には日本語学校もなければ、養成講座もなく、日本語教育の勉強を続けるのは難しい。だったら、自分達で集まって自主勉強をしていこう」と、研究会を立ち上げたのです。身近に指導者がいない中での勉強会、苦労もありましたが、みんなでテーマを決め、順番に発表を担当しながら学びを続けていきました。(※2013年、函館で第一号の日本語学校が誕生しました)。

 

こうしてスタートしたJTSは、今年25周年を迎えましたが、今でも「会員の学び合いと実践の共有」を大切にするという基本方針を大切にして活動しています。見せて頂いた2012年度の報告書を見ると、年2回の日本語教育セミナー、毎月のように開催されている「JTS全体研修会」、同じ関心を持つ人々が自主的に集まり学習する「テーマ別学習会」等の記録がしっかりと残されていました。こうした自律的な学びを、ごく自然な形で続けていること、それを全ての会員で共有しようとする姿は素晴らしいと思いました。

 

■地道な活動が函館市を動かす:「函館市日本語教室」スタート!

そんなJTSですが、「日本語サロン」を立ち上げ、実際に活動を始めることになったのは、1996年6月のことでした。それまで7年かけて学んできたことが実践に移せることの嬉しさ、「函館に暮らす外国人が、少しでも快適に暮らすことができるように」という思いで、手探り状態で「日本語サロン」を作り上げていきました。

学習タイム

学習タイム

 

「日本語サロン」を始めて3年経った1999年のある日、市の職員が「日本語サロン」に見学に見えたのですが、そこで思いもかけない話が舞い込んできました。それは、「JTSが市の委託事業として日本語教育を請け負ってほしい」という要請でした。会員達は「私達の実践が市を動かしたんだ!」と、「日本語サロン」に加えて「函館市日本語教室」を早速スタートさせました。現在では、①入門コース、②初級コース、③読み書き初級コースという3つのコースが実施されています。

 

■みんなで創る「日本語サロン」の魅力

今回、見学させていただいた「日本語サロン」についてご紹介したいと思います。毎週土曜日に開かれている「日本語サロン」は、<学習タイム(60分)>と<交流タイム(30分)>から成り立っています。<学習タイム>は、参加者の希望を聞いて、毎回マッチングが決められます。このサロンでは学習者に寄りそうことを大切にして、日本語教育学習の手助けをすることをモットーにしています。

 

<学習タイム>が終わると、参加した学習者もボランティアも一緒になって<交流タイム>を愉しみます。せっかく集まったのだから、参加者みんなが知り合いになり、学習者同士もネットワークを持ってほしいという思いで始まりました。日本語学習を始めたばかりの人も、上級話者も日本人も、語り合い、共に活動していくことで、「日本語を使って人とつながることの楽しさ」を体験していきます。

 

交流タイム1

交流タイム1

その日の「交流タイム」をどう進めるかは、毎回担当のボランティアがアイディアを出し、企画していきます。ジェスチャー紹介、数字のごろ合わせ、折り紙、茶道体験、浴衣体験・・・実にさまざまです。ちょっと報告書の中から2つほどご紹介しましょう。

 

◆冷蔵庫と食材のイラストが配られ、それぞれが好きな料理をイメージで作りました。足りない食材は自分で足していき、日本にはない食材も出したりして、たくさんのメニューが出来上がりました。(p.13)

 

◆旅行のプランを立てる:3チームに分かれ、予算の書かれたくじを引き、行き先、何をするか、行く方法、日数、を話し合う。最高額50万円の予算の「S&Mチーム」はボラボラ島でイルカやエイと泳ぐそう。予算30万円の「たけしミックスチーム」はネパール旅行。象に乗ったり、エベレストを空から見たり。最低額5万円の「たぬきチーム」は登別温泉でおいしいものを食べ、柔らかいふとんで寝るそう。金額とパンフレットを見比べたり、日数についてスタッフのアドバイスもあり、皆楽しそうに話し合っていた。(p.28)

 

■全員で実践報告の共有:ML活用と報告書の作成

交流タイム2

交流タイム2

こうした実践は、JTSのメーリングリストで共有され、その週にはどんな活動をしたかが「みんなの財産」として蓄積されていくシステムになっています。さらに、1年の活動記録として、冊子としても配布されています。何しろ毎週の実践をしっかりと記述し、それを研究会の活動記録として、共有されていくのですから、活動は一目瞭然、会員の理解度も高まります。一般的にボランティア活動は、実施準備には力を注ぐものの、記録・振り返り・共有化はついつい疎かになりがちですが、JTSでは実践後にも熱心に取り組んでいます。さらに、それを研究会全体としてシェアするからこそ、会員間の輪も生まれ、良い形で続いているのだと思います。

 

学び続けることを大切にし、一方で函館に暮らす外国人が心豊かな生活ができるようにと、日本語学習のサポートを続けるJTSメンバーとの対話を通して、私は「学ぶとは誠実さを胸に刻むこと、教えるとは希望を与えること」というアラゴンの言葉を思い出していました。

 

JTS http://jtshakodate.sharepoint.com/Pages/default.aspx

HIF http://www.hif.or.jp/

懇親会「彩り家」2014.4.19

JTSメンバーの有志による懇親会(「彩り家」にて)

 

2 Responses

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  1. 嶋田和子先生
    土曜日は有益なご講演を誠にありがとうございました。
    またこの度は、立派なJTSの紹介を書いていただき、誠にありがとうございます。会員一同、感激しております。先生のお仕事の速さと綿密さにまず驚きました。先生がたくさんのお仕事をこなしていらっしゃる秘訣が分かったような気がします。先生からいろいろ伺った個人的なお話もとても興味深く、次回お会いした時には、その続きをお聞かせいただければと思っております。
    会員たちから「ぜひもう一度先生のお話をお聞きしたい」という声が多数寄せられています。日時などを検討した上、高橋かつ子さんを通じてお願いをいたします。その節はどうぞよろしくお願いいたします。
    懇親会にまでお付き合いいただき、いろいろお話しできて楽しい時間を過ごさせていただきました。ご本の寄も有難うございました。皆で勉強させていただきます。
    先生からJTSの活動を褒めていただいたことを励みに、これからも活動を続けてまいります。

    お忙しい毎日と存じます。どうぞくれぐれもお体をお大切になっさってください。
    田中慶子

  2. 田中さま、早速コメントをお寄せくださり、ありがとうございました。研修時、皆さまがいきいきと発言したり、隣の方と話し合っていらっしゃる姿、とてもすばらしいな、と思いました。今回参加した9人の高校生にとっても、皆さまとの語り合いは良い経験になったことでしょう。懇親会での「アイディア」にも感動しました。私にとっても楽しいひと時でございました。本当にお世話になりました!

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