<韓国を語らい・味わい・楽しむ雑誌>『中くらいの友だち』という雑誌をご存知でしょうか。
2017年4月に創刊された雑誌ですが、「創刊の言葉」として、以下のように記されていました。
今から二十年ほど前、ソウルで暮らす日本人と在日韓国人で『ソウルの友』というミニコミ誌を出していたことがあります。『ソウルの友』とは、ソウルの友だちであり、ソウルで出会った友だちという意味。今回はさらに踏み込んで、『中くらいの友だち』としました。
「中くらい?」
そうなんです。最高でも最低でもなく、中くらい。時にはとてもカッコイイこともあるが、こいつダメかも……という情けない面もある。でも、長く付き合えば、まあそこそこ良い奴だよね――この雑誌は、そんな韓国のお友だち本です。
創刊を思いついた理由はいくつかあります。
1. まずは、日本では政治やイデオロギー、あるいはスキャンダルで扱われることの多い韓国ですが、そこから少し離れて 、文化を真ん中にして語り合いたい。……中略……
韓国を楽しみ、味わい、語り合う。対立を砕いて共感のかけらを集めましょう。驚きと笑いを肥やしに、中くらいを極めます。世界中が対立的になっていく中、私たちは友だちを大切にしたいと思っています。 2017年4月1日
そして6月25日発行の第9号をもって「休刊」となりました。編集後記には、次のように記されています。
思い起こせば2017年、嫌韓本ばかりの日本の状況にうんざりして始めた『中くらいの友だち』。それがいつのまにかドラマに映画に小説に、大韓国ブームの時代となりました。ということで、一応のお役目は終わったかなと、一休みすることにしました。
これまで楽しませてくださって、ありがとうございました!
さて、休刊前の第9号に、こんな記事が載っています。ぜひ皆さまにご紹介したいと思います。
「うちのジホンの話 ~ 韓国で自閉症の子と暮らしています!~」
(平野有子さん:pp.32-41)
記事をぜひ読んでいただきたいところですが、まずは項目をお伝えし、私の思いを述べたいと思います。雑誌は、簡単に手に入りますので、ぜひお読みください。
http://www.libro-koseisha.co.jp/literature_criticism/9784774407470/
*自閉症と診断された次男ジホン、幼稚園へ
*健常者と障害者が共に学ぶ、統合教育の小学校時代
*世話好きな、小さなアジュンマたち
*「みんなを笑顔にしたで賞」
*中学・高校は自立のために特殊学級へ
*悩んだが、日本に帰らなかった理由
*今のジホンの話、自閉症バイリンガル?
*最強のオンマ集団、闘う「障害者父母の会」
平野さんは、1991年秋よりイーストウエスト日本語学校でご一緒に仕事をしてきた良き仲間です。やがて結婚し、ご長男が生まれてからもしばらく仕事を続けていましたが、ご主人のお仕事の都合で、2000年に渡韓。続いて、長女、次男に恵まれ、3児の母となった平野さんは、毎年1月(or2月)の里帰りの際には、必ず私の職場に寄ってくださっていました。
末っ子のジホン君は発話がほとんどなく、3歳前後で自閉症と診断されましたが、平野さんはいつも笑顔で明るく、さまざまなエピソードを語ってくれていました。異郷で、自閉症の子供さんを抱えることになり、どんなにか悩んだこともあったことでしょう。でも、いつも「ジホンは、癒し系で、家族みんなが癒されているんですよ」と、丸ごとジホン君を受入れ、ゆったりと接している平野さんを見て、いつも感動していました。
今回、休刊前に『中くらいの友だち』に、ジホン君との生活について書いてくださったことをとても嬉しく思っています。私は、これまでいろいろ伺っていましたが、今回改めて文章を読んで、いろいろ考えさせられました。
平野さんは、自分の韓国語力では、病院や療育施設で先生達との意思疎通を図る上で、問題が生じるかもしれないと考え、日本で育てることも考えました。しかし、最終的には、これまで通り韓国で暮らすことを選びました。それは、以下のような理由からでした。
ジホンには私たち家族だけでなく、近隣に住む祖父母、夫の姉妹家族がいる。みんなジホンの障害のことを聞いてショックは受けていたが、協力は惜しまないとも言ってくれた。この「大家族」のがやがやした環境は、どんな優れたプログラムよりも勝るものに違いない。
こうして平野さんは、ひたすらジホン君のことを思い、ソウルでの生活を続けたのです。また、「韓国語と日本語」という言語の課題も、とても興味深く読みました。
ジホンを幼稚園の頃から見てきた言語治療の先生は、かつてはよくこういったものだ。
「それでなくても言葉の発達には大きな遅れがあるのに、韓国語のほかに日本語なんて……。こちらで生活していくのなら、ジホンには韓国語のみを使ったらいかがですか?」
でも、私は我が子には自分の心が一番こめられる言語を使いたかった。慣れない外国語で話しかけて自分の気持ちが子供に通じるとは思えなかった。先生には申し訳なかったが、私はジホンに日本語を使うことをやめなかった。
そして今、言語治療で韓国語の指示にも私の日本語の指示にもさくさくと従うジホンを見て、先生は苦笑する。
「自閉症のバイリンガルなんてまずいませんよね。お母さん論文書いてくださいよ」
このエピソードには、「母と子の言語使用に関する大切なこと」が含まれています。多くの方々に一緒に考えてほしいテーマだと思います。
前回アクラスでジホン君に会ったのは、2020年1月のことでした。あの時も、実に楽しそうにニコニコしながら、好きな遊びに夢中になっていました。早くコロナが収まって、また「みんなを笑顔にしたで賞」をもらったジホン君に会いたいものです。
※この賞は、小学校の卒業式の日に、「みんなを笑顔にした」功績で、前卒業生の前で舞台に上がって受賞したものです。
1月には、平野さん親子とご一緒に、編著者の伊東順子さんも来てくださいました。そして、『中くらいの友だち』の第5号と第6号をプレゼントしてくださったのです。休刊になるとは、何とも残念なことですが、これまでのご縁に心より感謝し、また違う形でのさらなるご活躍を期待しています。