「学習者の学びを止めたくない」、3月からオンライン授業を実施!~イーストウエスト日本語学校の取り組みから~

 

「学習者の学びを止めたくない」、3月からオンライン授業を実施!

    ~イーストウエスト日本語学校の取り組みから~

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新型コロナウイルスによる影響は、社会にさまざまな影響を与えました。海外から来る留学生を主たる対象とする日本国内にある日本語学校は、特に大きな打撃を受けました。一時帰国していた在校生が再来日できない、新入生が入国できない……といった状況に突然陥ったからです。法務省告示校が2019年8月現在775校ありますが、その対応はさまざまでした。

 

そうした中で、東京中野区にあるイーストウエスト日本語学校(以下、EWとします)の教職員は、「学習者の学びを止めたくない!」と、3月16日から急遽ZOOMによる同期型オンライン授業を中心に、非同期の有効活用を含めスタートさせました。

 

EWは、それまでにICT化が進んでいた学校であったわけではありません。学内にプロジェクターが1台しかなく、イラスト提示なども紙を使って実施していました。しかし、そこには長年かかって作り上げた「学びの共同体」があり、「みんなで何とかしよう」と未知のものへの挑戦が始まったのです。

 

筆者は、EWに足かけ23年勤めた後、2012年に退職しましたが、その後も一人のOGとして、個人的に教師教育に関わり続けてきました。今回の「コロナ禍」に先生方が向き合う姿もずっとメールで、あるいはZOOMで見てきました。そこで、日本語学校のネガティブな情報ばかりが出回っている中、少しでも日本語学校を理解していただきたいという思いから、日本語学校の真剣な取り組みを知っていただきたいと思い、レポートを記すこととしました。

 

■コロナ禍の兆し~2月中旬の異変~

 

春節直後から、いくつかの兆しが見え始めていました。「登校したくない」「親が学校へ行くことを不安だと言っている」など、在校生からさまざまな声が上がり始めました。

 

2月12日(水)湖北省浙江省からの入国を禁止

         

この情報を受けて、学内ではいろいろ検討が始まりました。

 

2月27日(金) 全国の小中高に休校要請

            

話し合いを重ね、とりあえず3月2日から休校にすることにしましたが、ここで大切にしたのが非常勤の休業補償でした。

 

3月2日(月)~3月13日(金) 2週間の休校

           

休校中の3月6日(金)に卒業式がありましたが、ホールでの実施は見送り、クラスごとに教室に分かれて実施することになりました。その間に、休校明けの在校生に対する授業をどうするかについての話し合いが活発に行われました。その結果、休校明けの月曜日(16日)からは、オンライン授業に切り替えることとし、早速準備に入りました。

 

 

■「学習者の学びを止めてはいけない!」という強い思い

    ~ゼロからのスタートに挑む~

 

3月6日に大勢の留学生が卒業していきました。しかし、あと1年日本語学校で学び続けたいという在校生が、日本語の授業を心待ちにしているのです。そこで、何とか「彼らの学びを止めたくない」と、オンライン授業(同期型)に大急ぎで取り組み始めました。

 

既に書いたように、EWはこれまでオンライン化には取り組んでいませんでした。そのため、機材も足りず、ノウハウもありませんでした。そんな中で、スピーディーに、持っている力を結集して、みんなで立ち向かおうと、すぐに動き始めたのです。

 

さっそく、教務スタッフがオンライン授業の進め方、先生方への伝え方を話し合い、「いかに効率よく、楽しくオンライン授業に入っていただけるか」について作業を進めていきました。次の段階は、3月16日以降「在校生に対してオンライン授業を受け持つ先生方」と教務が一緒になって、ZOOMに実際に入っての学び合いです。

 

まずは「学生役」の体験、次に、順番に教師役を務め、実際の授業をイメージしていきました。「オンライン授業に初めて取り組む」際に、心しなければならないのは、スキルに走ることです。そこで、「学習者体験」を大切にし、学習者にとって、その授業がどのように見えるのかという「学習者の視点に立って準備を進める」ということに心を配りました。

 

教務主導の研修会が終わると、非常勤同士で自主的にミニ講習会が開かれていたり……。同僚性と協働性を大切にした「学びの共同体」がしっかりできていたからこそ、<全員野球>で進めることができたのだと言えます。

 

■初めてのオンライン授業

3月16日(月)~3月19日(木)

 

この3月中旬に実施した「在校生向けのオンライン授業」が、EWで行われた初めての実践でした。不安もありましたが、十分な研修会(自主勉強会)を実施して迎えたこともあり、「練習していたから全体の流れがうまくいった」「問題なくスムーズにできた」といった感想が多く届き、教務一同「頑張ってよかった!」と胸をなでおろしました。

 

  ・久しぶりに学生の顔が見られてよかった。

  ・いつもは声の小さい学生の声も、よく聞こえてよかった。

  ・生活音やほかの学生の音と混ざって聞こえにくいこともあったが、

とても集中して聞いているようだった。

      ・カメラでいつも以上に一人ひとりの表情が見えた。

 

もちろんWi-Fi環境による「顔出し」の問題や、ハウリングなどの課題もありましたが、「ZOOMによる同期型オンライン授業」と「ライン・メールなどによる非同期型オンライン授業」とのバランスを取りながらの授業実践となりました。(大学などでは、非同期型としての動画作成・配信が多く使われていますが、EWではできるだけZOOMによる同期型をメーンとし、非同期も効果的に使っていく形を取りました)。

 

無事在校生向けの3月の授業は終了しましたが、その前後、「4月生は、来日できない模様」というニュースが入り、ほっとする間もなく、4月生へのオンライン授業実施に向けてのさらなる挑戦が始まりました。

 

 

■在校生と未入国学生に対するオンライン授業

4月6日(月)~6月11日(木)

   ※「未入国学生」に対しては、7月現在もZOOMによるオンライン授業が

     継続して行われています。

 

それまで機材が整っていなかったこともあり、大急ぎで機材の確保に取り組みました。学内のほとんどのパソコンにカメラが付いていません。そこで、12教室分のカメラとマイクの購入から始めましたが、もうすでに市場では品不足状態。ネットで調べつくし、やっとのことで12台揃えることができました(最後の一台だったとか・・・)。

 

オンライン会議システムに関しては、私が数年前の学内研修で「ZOOMの便利さ」を伝えていたため、迷うことなくZOOMに決定となりました。とはいえ、ほとんどの教師が使ったことがないという状態でした。また、日本語学校の授業で使うためには、無料のものを使うわけにはいきません(あとで、期間限定の「時間制限なし」がつきましたが、当時は40分限定となっていました)。そこで、いろいろ調べた結果、「ZOOM教育」に加入することになりました。まだ、ほとんどの日本語学校がZOOMによる授業を検討する前の3月下旬には、既に準備完了という状態にもっていけたことは、まさに全教職員の連携プレーによるところ大と言えます。

 

こうして体制づくりをしたうえで、3月27日の講師会を迎えました。ここでは、3月に実施したオンライン授業をまとめた「ZOOMを使ったオンライン授業の報告」を全員でシェアし、さらに研修会を行い、4月の新学期に備えました。

 

オンラインプレースメント(3月31日(火)~4月3日(金)も4日間にわたって、丁寧に実施しました。これは、未入国の学習者の情報を、教務全体で把握しておくことの大切さ、できるだけ適切にクラスを作るためのデータ、学習者との関係性づくりなどが目的でした。

 

その後、ZOOM授業だけではなく、以下のような取り組みも始めました。

・進学オリエンテーション(国別)

・学習奨励費希望者にオンライン面接

・オンライン進学相談室

 

思いつくことは、次々にスタートさせていきました。

 

 

■授業実施に当たって心がけた5つのポイント

    ~「学習者とともに学ぶ」という姿勢~

 

実践例のご紹介は、他の機会に詳しく記すこととしますが、オンライン授業でのポイントについて、実践例を挙げながら記しておきたいと思います。こうして始まった23クラスのオンライン授業、特に「未入国クラス」の実施では、先生方は不安な気持ちもあったものの、こんな思いで進めていったと言います。

 

①    「来日できず、辛い」という学習者の気持ちに寄り添おう!

②    日本に来たくなるような授業にしよう!

③    学習者の自律的な学びを大切にしよう!

④    クラスのコミュニティづくりに力を入れよう!

⑤    先生方との連携をさらに強くしよう!

 

①    気持ちに寄り添う、②日本に来たくなる仕掛けという点では、さまざまな工夫がありました。

・「今日の中野の様子」を毎日スタート時に工夫をして見せる。

・『できる日本語』【できる!】の発表の際には、いろいろな人に参加してもらう。

「在校生クラス」では、以前習った先生方に参加してもらう形を取り、学習者にも教師にも「学びのアーティキュレーション」を意識してもらったクラスもありました。

 

③    自律的な学び、④クラスのコミュニティ化について、A4クラスの実践例を挙げながら説明します。(※A4クラスは、新入生クラスで、全員中国出身の学生さんです。国で少し勉強した学生さんで、4月6日スタートのZOOM授業は、『できる日本語 初中級』1課から始まりました。)

『できる日本語 初中級』5課【できる!】は、困ったことについて「大変な1日」のシナリオをみんなで書き、披露するというものですが、これをオンライン上のクラスで見事にやったのには、驚きました。まるで対面授業のようにスムーズに、一つのチームとしてやっていたのです。

 

たった1か月前にオンライン授業で初めて知り合ったクラスメイトが、お互いに意見を出し合い、自分達で役割を決め、さらに微信(ウィーチャット)で練習までして、当日の授業に臨みました。セリフが多い人に対する配慮から、主人公は2人で実施、セリフが少ない人は、一人二役などの話し合いまで行われていたのです。

 

こうしたクラスづくりは、3人の教師が学習者に寄り添いながら、ZOOM授業の前後には、ラインやメールで、宿題のやり取り、質問に関するやり取り……非同期を十二分に活用していたことが、大きく影響していると言えます。

 

④    教師の連携ですが、対面授業以上に、クラス担当者間(教務のコーディネーターも加わります)の連絡を密にし、また、パワーポイント、プリントなど自分が作成した資料は、すべて共有していきました(翌日学校に行ってホルダーを見て…ではなく、瞬時に共有できるのはオンラインの大きなメリットです)。

 

■日本語学校の日本語教育は熱い!

   ~65枚の「振り返りシート」とともに~

 

外出自粛規制が緩和され、あちこちで会議が開かれるようになりました。そこでは、委員の方から、以下のようなことが述べられたことがあります。

 

日本語学校は、今、経営的にも大変ですし、非常勤は自宅待機や解雇になっています。

オンラインをやっているところも見られますが、休校としていたり、資料や動画を

配布して終わりということで、数か月済ませている学校がほとんどです。

 

確かにそういう状況もありますが、必死に学校で一丸となって、「自分達にできることは何か」を考えながら、未知のことにチャレンジしている学校もあるのです。そういうことを知っていただくことが、このレポートの大きな目的でした。

 

「非常勤の雇用を守りたい!」

 

EWの教務もこの思いのもとに、必死で動いてきたのです。「ともにやってきた仲間と、コロナ禍を乗り越えて、一緒にやっていきたい。教務の自分達にできることは何なのか」と考えながら、一つ一つ対応してきました。まさに、「学びの共同体」としての日本語学校の在り方が示されていると言えます。

 

6月25日(木)は、講師会の日でした。私は、講師会までに全員の先生に「オンライン授業を振り返って」という振り返りシートの提出をお願いしました(講師会では、毎回午前中、私がワークショップを実施しています)。全員のシートを一本化し、講師会当日に配布し、ワークショップに臨みました。

 

<イントロ →グループでの話し合い →いくつかの実践の共有 →まとめ>

 

この一本化シートには、多くの知見があり、このコロナ禍での突然の「ZOOM授業実施」に向き合って、教師がそれぞれどのように考え、成長していったかを知ることができます。いずれ「実践例の紹介」を含め、「実践のヒント」等の形で、皆さまと共有したいと思っています。

 

写真(1)

この写真は、新入生に対する4月6日の初日の授業で提示した写真です(A9クラス)。

「皆さんはまだ国にいるけれど、皆さんが勉強する学校はこんな所ですよ」

という思いを伝えたかったと、クラス担任の荒井さんは話していました。

写真(2)

A4クラスの学生さんが、6月23日(火)のA1学期(4月~6月)最終日に、担当してくださった3人の先生方に送った「感謝状」です。実際には、この感謝状は文字だけではなく、トウさんの音声も付いています。

※写真、作品は、学生さん、先生方に掲載許可をいただいてあります。

 

今回は報告記事であることなどから、学習者の作品は、Aクラスのトウさんによる感謝状だけにとどめます。上述したように、改めて授業実践を記すこととします(サイト「できる日本語ひろば」)。

 

 

追記(7.5)

『できる日本語』を使ってくださっている方から、こんなコメントが届きました。

 

 Facebookで「(コロナ禍での)イーストウエスト日本語学校の取り組み」

を拝見させて頂きました。

 写真を拝見していると、なんだか「できる日本語」のパクさんがこの階段を
上がっているような気もしてしまいました。
                 ・
こうした「つながり」って、嬉しいですね。
                ・

写真(1)

4月6日(荒井さん)

写真(2)無題

 

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