海外だより<コロナ禍に向き合う>第7回「スイス・チューリッヒの現場から」(メルキ・能子さん:6月13日)

海外だより<新型コロナ禍に向き合う>第7回

  「スイス・チューリッヒの現場から」メルキ能子さん(2020.6.13)

 

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新型コロナウイルス感染症の拡大による影響は世界中に広がっています。   

それぞれの国・地域では取り組み方も違えば、人々の行動の仕方も違います。   

そこで、海外で暮らし活動をしていらっしゃる方々から、「現状、取り組み方、

特長など」について伝えていただきたいと考えました。

 

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      「チューリッヒの現場から】

        メルキ能子さん

 

「コロナウイルスがパンデミックをひきおこしそうだ」そんな予感が初めてしたのは、2月3日の月曜日の朝でした。グーグル社に勤める香港人女生徒の個人授業でのこと。彼女が中国の武漢で感染が広まり、大変なことになっていると教えてくれました。しかし、スイスでは、その時、まだ感染者は出ていなかったと思います。

 

チューリッヒではその一週間後2月10日から二週間に及ぶ公立の小中学校のスキー休暇が始まりました。

私が経営するJapanese Language Studioは、基本的に休みをチューリッヒの公立の小中学校の休暇中に合わせています。ですから、個人レッスンが数件あった他は、静かな二週間が過ぎて行きました。しかし、その間に、感染者が毎日数人出るようになり、コロナウイルス関連のニュースが目につくようになりました。そして、イタリアで感染者が数百人になり、死者がで始め、ロックダウン(都市閉鎖)の可能性がささやかれるようになりました。

 

休み明けの2月24日の月曜日の朝、上記の香港人女生徒との個人授業が、キャンセルになってしまいました。彼女が米国滞在中に中国人と接触があったという理由で、会社から外出禁止を言い渡されてしまったのです。そしてその晩のグループレッスンでは、イタリア北部でスキー休暇を過ごした学生二人が、自主的に授業を休みました。一人は風邪の症状があるので念のため、ということでした。

 

2月25日は、グーグル社で出向レッスンがありましたが、会社に入れてもらえず、授業を急遽キャンセルしなければならなくなりました。その週から正社員以外は社内立ち入り禁止になってしまったのです。

そして、27日木曜日の夜のJLSでのグループレッスンでのこと。11人のグループレッスンでしたが、あるイタリア人生徒が、風邪の症状がありながら、クラスに参加しました。彼女自身が医師で、本人は絶対にコロナではないと笑っていたものの、彼女はその日に、ウイルスが猛威を振るっていたベネチアから帰ってきたばかりだったのです。それを聞いた他の生徒達の顔色が変わった瞬間を私は見逃しませんでした。

 

私は毎年2月下旬から花粉症が始まります。今年も例外ではなく、その週末は、くしゃみと目の痒みに悩まされました。3月2日の月曜は、夕方4時から夜9時まで、3本の授業がありましたが、薬を飲みながらこなしました。翌3月3日も、通常通り授業をしましたが、どこかおかしい。くしゃみと咳が同時に出ます。熱も少しあります。味覚もおかしい。。。ひょっとしたら?と急に不安になりました。万が一、自分が感染していたら、月曜と火曜日の学生達にウイルスをうつしてしまったかもしれません。そこで、めったに授業を休まない私ですが、3月4日から16日まで、授業を休むことにしました。感染していた場合、2週間は隔離されなければなりません。自宅から一歩も出ない、誰にも会わない、そう決めました。生徒達には、4月に予定されていた春休みを短縮することで、埋め合わせをすることにしました。

 

そして3月16日の晩、なんと、政府の非常事態宣言が出て、スイスのロックダウンが始まってしまったのです。ロックダウン中は、食料品店と薬局以外の全ての店舗、飲食店、そして語学学校を含む全ての教育機関が閉鎖を強いられました。対面授業は禁止です。いつまで、ロックダウンが続くかは、2週間後の政府の発表までわかりません。

 

しかし、その時はまだ、国民の大半と同様、私もロックダウンは3月いっぱいで終わるだろうと信じていました。ですから、4月の春休みの前倒しというふうに授業予定を組み直し、3月中は授業を一切やらないことにしたのです。オンライン授業も無しです。

ところが、ロックダウンは4月も解除されませんでした。流石に、ブランクが開きすぎるので、オンラインでできるクイズなどを作成し、生徒達に配信を始めました。グーグル社での出向レッスンは全てオンラインの同期授業、他のクラスでは非同期授業の形態をとりました。

 

やっと、教室での対面授業ができるようになったのは、5月11日からでした。でも、5人以上は集まってはいけないという決まりがあったため、クラスを二つに分け、隔週で来てもらうことに。それでも多すぎる場合は、若い学生にZoomでのオンライン授業を提供することで、なんとか授業を再開しました。

全員揃って教室での授業ができるようになったのは、6月8日からです。

 

教室の机は、できる限り間隔をあけ、消毒液は机の上に常備、マスクも必要なら無料で提供しています。互いの体に触れないように、またハンドアウトなどの手渡しも極力避けての授業です。

 

実に15週間ぶりの教室での対面授業です。教室の外で、入室を待っている学生達のにぎやかな声が聞こえた時、私の心の中の花畑が一気に満開になりました。生徒達の笑顔が戻ってきました。

 

6月9日の火曜日の夜のグループレッスンでは、その前の週に、無事入籍したという男性生徒が、シャンパンと高級プラリネをみんなに振舞ってくれました。結婚式はできなかったけれど、ハネムーンはできれば今年の秋に日本へ行きたいと語ってくれました。

 

新型コロナパンデミック後のこれからの日本語教育のカタチは確実に変化します。

オンラインでの授業形態に否応無く身を置くことになった私ですが、ピンチはチャンスです。インターネットを活用した新たな授業スタイルが生まれましたし、今後も育っていきそうです。未開の土地に一歩踏み出した、そんな冒険者のウキウキした気持ちで今は授業に臨んでいます。

 

スイス政府の対策と現状については、以下のサイトを参照いただけると良いかと思います。

 https://www.swissinfo.ch/jpn/society/新型コロナウイルス-スイス-最新情報/45591162

           

写真:先週火曜日(6月9日)の授業中に写したものです。入籍したての幸せいっぱいの生徒の笑顔が素敵でしょう?
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PS:
自作のオンラインでできるクイズの例もリンクを貼っておきますので、宜しければのぞいてみてください。

ひらがな&¨カタカナクイズ
https://forms.gle/y5M6ZX6hYgNJyqGh9

NHKの教育番組を利用したクイズ
https://forms.gle/YfzBFzadQjDrknw98

                   

【嶋田より】

2015年2月には、アクラス特別研修会として「漢字トーク」を実施しました。

講師はメルキさんです。メルキさん独特の漢字指導について熱く語ってくださいました。

http://www.acras.jp/?p=3760

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