11月5日は「日本語の日(二本+五)」! ~新宿日本語学校「にほんごの日」を登録!~

新宿日本語学校の江副校長は、新しいことを発見、発明するのが大好きなアイディアマンで、いつも目をキラキラ輝かせて新しいことを考えていらっしゃる先生です。今日は、その新宿日本語学校の「第2回学内研究発表会」にお邪魔しました。講演、ポスター発表、口頭発表に加えて、なんと「にほんごの日」記念日登録授与式が行われました。そのアイディア、「日本語の日」を作ることへの情熱に感動! ちょっと「にほんごの日」、そして「学内研究発表会」についてお伝えしたいと思います。

新宿日本語学校予稿集表紙

 

■なぜ11月5日が「にほんごの日」に?

 

江副さんのお話によると、ちょうど30年前の1989年に「日本語の日」のアイディアを思いついたのだそうです。1989年に発行された学内誌「月刊SNG」の記事をご覧ください。当時、周りの人々に、「11月5日を『日本語の日』に制定し、何か日本語教育全体で、イベントをしたらどうでしょうか」と言って歩いたのですが、全く反応はなく、広めることは諦めました。でも、ひそかに「いつかは『日本語の日』を制定し、みんなで日本語を教えることの楽しさを共有できるようなイベントをしたい」と思い続けていました。その証拠の一つとして、車のナンバープレートは、ずっと「1105」を使用してきました。

 

そして、去年「学内研究発表会」を発足させるにあたって、「にほんごの日」を制定し、「第1回『にほんごの日』記念 新宿日本語学校研究発表会」としました(実際には、学校のスケジュールの都合で、11月3日実施となりましたが・・・)。今年の第2回学内研究発表会は、もちろん11月5日に実施、さらに、登録申請をすることとし、当日「記念日登録授与式」と相成りました。なぜ11月5日が「日本語の日」になるかというと、「11」という数字は、「〈1〉が2本」、「5」は「語」なので、「にほんご(日本語)」となります。

 

江副さんと登録証z

■新宿日本語学校で、『できる日本語』の編纂過程のお話を!?

 

その「にほんごの日」に行われた「学内研究発表会」での基調講演は、私が「日本語教師のやりがい・楽しさを考える~『できる日本語』は、なぜ、どのように生まれたのか~」というテーマで行なうことになりました。これも、またまたユニークな発想です。私は、『新実用日本語』をはじめ沢山のオリジナル教材がある新宿日本語学校から、「『できる日本語』について話をしてほしい」という依頼があった時には、正直驚きました。しかし、事前打ち合わせでいろいろお話を伺う中で大いに納得、以下のようなお考えがあったのです。

 

 

 

新しい教科書を作るって大変なことですよね。一体どういう過程を経て、生まれたのか。それを知りたいと思いました。編纂過程でのこと、苦労、工夫、先生同士の関わり方……。いろいろ伺うことは、ウチの学校の教師同士の学びや、学校の活性化に役立つと思いました。

 

これまで数えきれないほど多くの日本語教育機関で、『できる日本語』についてお話をしてきましたが、その編纂過程そのものにフォーカスをし、しかもオリジナルテキストを作成

IMG_2099 - コピーしている教育機関で講演をしたことはありませんでした。教科書を作り始めてからこれまでの十数年、教師同士が対話を重ね、成長し続けてきました。それが教科書作成の魅力であり、やりがいでもあります(もちろん長く、苦しく、大変な年月でもありますが……)。それを軸にしてお話をし、参加者の方々と共有し、それぞれが自分の実践に落とし込んでくださることは、とても意味のあることだと改めて思いました。

 

こうして迎えた学内研修会の日でしたが、基調講演を終えた後も、ずっと参加をさせていただき、とても貴重な体験をすることができました。

 

 

■多様な口頭発表、ポスター発表に感動!

 

2つのポスター発表と、5つの口頭発表のタイトルを記します。

【ポスター発表】

・レベル差のあるクラスにおける活動実践報告~ピア・ラーニングを用いて~

・ホリデークラスにおける活動実践報告~学習者のニーズと大学生のアンケートから~

 

【口頭発表】

・留学生ビザ申請の選考書類について

・新宿日本語学校における進学状況の変化

・ぼっこちゃんにAI(愛)は作れるか~上級クラスにおける発展的教室活動を考える~

・初級Ⅱの期末試験について

・江副式教授法を基にした外国人児童に対する日本語指導の実践

 

どれも興味深い内容であり、また、日本語教師、事務職員、進学担当者……と、多様な方々による発表である点、すばらしいと思いました。

 

記録最後の発表「江副式教授法を基にした外国人児童に対する日本語指導の実践」は、渋谷区の小学校で教鞭をとられている白杉さんによるものでした。白杉さんは、今年度より、「日本語学級」で子ども達に日本語を教えていらっしゃいます。この教室は、区全体から日本語能力が不十分な子ども達が、週に数回(1回2時間)通ってくる「通級指導教室」です。そこで、新宿日本語学校の先生方と定期的に勉強会を実施し、少しでも楽しく、効果的な指導法を……と実践していらっしゃるそうです。こうした日本語教育と学校教育との連携は、今後どんどん広がっていくことが望まれます。

 

 

■「疑う」ことを出発点に持つこと~常識が権威主義にコントロールされている!

 

江副さんの特別講演は、「ICT時代の日本語教育」というテーマでしたが、お話は実に広範囲にわたるものであり、その根っこにあるのは「なぜを問うことの大切さ」でした。その点は、今回の私の講演内容である「『できる日本語』は、どんな教科書で、どう教えるのか」ではなく、「なぜ誕生したのか?」「なぜ『できる日本語』が必要だったのか?」という問いにつながります。

 

・ICTやAIの理解が表層的である

・権威と現実の乖離は大きな課題である

・これからするべきこと

 

ナンバープレートという3つの軸をもとにして、話は進められましたが、私は特に、「権威と現実の乖離」に関心を抱きました。江副氏は、当たり前になっていること、常識となっていることを、改めて問う姿勢の大切さについて、語られました。これは、まさに日本語教育においても、とても重要なことであり、多くの教師が「何を、どう教えるか」にばかり目が行き、「なぜ?」を問うことを忘れてしまっていることへの危機感に通じます。

 

昨今、「アクティブ・ラーニング」がクローズアップしてきていますが、これは、もともと日本の小学校でなされてきたことであり、1980年代、90年代に世界各国から視察に来た教育関係者が、日本の学校の班活動に注目し、それが「アクティブ・ラーニング」という名前で逆輸入されたものであることについて触れられました。日本語教育では、何十年も前から実践してきたことであり、それが権威によって語られることで、あたかも新しいものが入ってきたかのように接する関係者に、驚きと失望を感じていた私は、大いに共感しました。

江副さんは、「これも、自分たちがしていることについて、外圧の形で、欧米で「アクティブ・ラーニング」と言われたら、その権威に圧倒されてしまったという少し情けない話のように思えてならない」と結ばれました。

 

♪   ♪   ♪

 

江副さんのお話は「ICTと日本語教育」がテーマかと思いきや、『タネをまく縄文人』(小畑弘己:2016)、『「学力」の経済学』(中室牧子:2015)、さらには『学習英文法を見直したい』(大津由紀雄:2012)等の著書を引用しながら多岐にわたるものであり、実に興味深いものでした。

 

今回、何度か話に出てきた『AIに負けない子供を育てる』(新井紀子:2019)』、『AI vs 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子:2018)なども、ぜひ読んでみたいと思いながら、帰路につきました。

※写真は、すべて許可を頂き、掲載しています。

 

記念撮影を江副さんから送っていただきました。

記念撮影を江副さんから送っていただきました。

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