「ともに社会をつくる仲間」という視点で外国人受入れ政策を!~「日本語教育推進基本法」の重要性を考える~

 

日本経済新聞では、7月30日から3日間「人材開国」というタイトルで、以下のような記事を載せました。

 

人材開国(上)「政策転換問われる覚悟:起点は人手不足」

人材開国(中)「多様性生かす知恵求む:選ばれる国へ」

人材開国(下)「共生へ百年の計あるか:解なき先行国」

 

 

国の動きを見ると、6月15日「経済財政運営と改革の基本方針2018~少子高齢化の克服による持続的成長経路の実現」(通称「骨太方針2018」)

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2018/decision0615.html、

そして、7月24日に「外国人の受入れ環境の整備に関する業務の基本方針について」

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/dai1/siryou2.pdf

が閣議決定されました。

こうした動きは、ある意味歓迎すべきことなのですが、よく見ていかなければならない問題も山積しています。

 

 

■これまで通ってきた道~どこまで「過去」に学んだのか?~

 

最近のこうした動きを見ていると、人手不足に喘ぐ政財界からの要請によって1990年に入管法が改正になり、大勢の日系ブラジル人、ペルー人が来日した頃のことを思い出します。そして、また、今回は違う手法で、大勢の外国人労働者を受け入れる方策に汲々としている政府の姿勢が見えてきます。マックス・フリッシュ(スイスの作家)の「労働者を呼んだつもりだったが、来たのは人間だった」という言葉の重さを、ここで考えてみる必要があるのではないでしょうか。

 

 

これまで留学生受け入れに関しても、さまざまな課題を抱えながら、今日に至っています。私は、例えば以下のような意見を発信してきました。

※「留学生100万人計画の画餅」(2007.4.24)

http://acras.heteml.jp/nihongo/?p=344

 「留学生30万人計画の意義と異議」(2008.5.20)

http://acras.heteml.jp/nihongo/?p=256

 

また、外国人材活用に関しては、4年前に出た首相案に対して疑問を持ち、以下のような考えを載せました。

「首相の『外国人材活用』案に疑問符!」(2014.4.12)http://www.acras.jp/?p=2730

・経済面にのみ焦点を当てるのではなく、オールジャパンで考えよう!

・もっと「過去」に学ぼう!

・もっと多面的な取り組みをしよう!

・「豊かな多文化社会」を作るための提言

 

果たしてどこまで「過去」に学んでいるのでしょうか。技能実習生の実態調査、留学生急増による日本語教育機関の実態調査など行った上での基本方針作成なのでしょうか?

 

 

■技能実習制度、3年から5年に、そして10年!

   ~しかし、「人財」という見方の欠如から・・・~

 

技能実習生が3年で帰国しなければならないという制度は、深刻な人手不足に悩む業界には大きな壁になっていました。そこで政府が考えたのは、「3年を5年に」という期間延長です。ただし、「3年経ったら、1度国に帰ること(1か月以上の帰国)」「5年間に滞在期間は延びたが、家族呼び寄せは不可」という2つの条件がついています。

 

人手不足解消のために、技能実習生に少しでも長く働いてもらいたいということから出た窮余の一策でした。しかし、「移民政策ではない」という考えに基づき、3年経ったら一度帰国して、再来日するという縛りがついています。また、家族呼び寄せはできないというルールには、彼らにはそれぞれの人生があり、家族とともに暮らすことへの配慮が見られません。

 

そして、こんな記事が出ています(「日経新聞」2018.4.11)

 

 政府は2019年4月にも外国人労働者向けに新たな在留資格をつくる。最長5年間の技能実習を修了した外国人に対して、更に5年間、就労できる資格を与える。試験に合格すれば、家族を招いたり、より長く日本国内で働いたりできる資格に移行できる。5年間が過ぎれば帰国してしまう人材を就労資格で残し、人材不足に対処する。外国人労働の本格拡大にカジを切る。

 

外国の方々は、こうした制度をどのように受け止めるでしょうか。果たして日本を「いつまでも居たい国」と考えてくれるでしょうか。「移民は受入れない。しかし、労働力はいくらでもほしい」という姿勢ではなく、「受入れ政策」を根本から議論し、外国人の方々を「労働力」としてではなく、「人財」として捉えることが重要であると考えます。

 

 

■還流型受入れには無理がある

  ~「ともに社会をつくる一員」という考えの大切さ!~

 

制度が整っていない状況、日本人の意識改革が進まない中、拙速に「移民政策」を進めては、混乱を招くことになります。まずは、これまで何が課題だったのか、そして、今後の日本はどうあるべきか等をデータに基づいて、しっかり議論することが重要です。しかし、そうしたことを進めることなく、対症療法的に「今ある技能実習制度」を利用して、何とか労働力不足を解消しようというのでは、問題を先送りすることになってしまいます。

 

技能実習制度によって素晴らしい成果をあげている企業、帰国後も日本と関わりを持って人生を切り拓いている元実習生……成功例はたくさんあります。今年6月にベトナムに行った際にも、何人もの元技能実習生から「日本での3年間があったからこそ、今の自分があります」という話を聞かせてもらいました。

 

しかし、一方で、技能実習制度は「現代の奴隷制度」などと言われ、さまざまな問題点が浮き彫りになってきており、世界の国々からも批判されている今、なぜその問題点に真っ向から向き合おうとしないのでしょうか。このままでは、30年後、50年後、人手不足がより深刻になった時に、日本は世界の国々から見向きもされないことになってしまいます。

 

私は、四半世紀前に教えた中国人留学生のことばを、改めて思い出しています。

 

先生、『留米親米、留日反日』という中国の新しいことわざを知っていますか。

アメリカに留学するとアメリカが好きになって帰国します。でも、日本が好きで、

日本に留学しても、かえって日本が嫌いになって帰国する人が結構多いんです。

それは、日本の留学生受入れ政策がしっかりしていないからですよ。言語政策

一つとっても、まだまだ問題だらけですよね。

 (嶋田和子(2009:25)「『多文化共生』の視点から見た“日本語を学ぶ”ということ」

『国際人流』第268号、入管協会)

 

 

■日本語教育で、活気ある社会づくりを!

  ~「日本語教育推進基本法」は、なぜ必要なのか?~

 

2016年11月に「日本語教育推進議員連盟」(以下、日本語議連とします)が立ち上がり、多様な現場の声を拾い上げながら、立法に向けて活動してきました。詳しくは、公益社団法人日本語教育学会のホームページ「社会啓発事業」をご覧ください。総会の時に配布された資料も全て載っています。

http://www.nkg.or.jp/shakaikeihatsu

 

今年5月29日に配布された「日本語教育推進基本法案(仮称)政策要綱」を見ると、目的として次のようなことが書かれています。

http://www.nkg.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/05/180529_kihonhoan.pdf

 

この法律は、日本語教育の推進が我が国社会における喫緊の課題であることに鑑み、

日本語教育の推進に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかに

するとともに、基本方針の策定その他の日本語教育の推進に関する施策の基本となる

事項を定めることにより、日本語教育の推進に関する施策を総合的に推進し、もって

我が国に居住する外国人との共生を通じて多様な文化を尊重した活力ある共生社会の

実現に資するとともに、我が国に対する諸外国の理解と関心を深め、また諸外国との

交流の促進に寄与することを目的とする。

 

30年以上日本語教育に携わってきた者として、「やっとここまで来たのか」と感慨深いものがあります。そもそもこれまで基本法もなく、国として確固たる方針を提示することもなくやってきたこと自体が大きな問題だったのです。経済面から押されて急速に進んでいる・・・という点は残念ではありますが、今は大きなチャンスであることに間違いはありません。オールジャパンで、一丸となって、日本語教育の充実のために努力すべきではないでしょうか。

 

今年の日本語教育振興協会「日本語学校教育研究大会」において、日本語議連事務局長の馳浩議員は、次のように語られました(2018.8.7)。

 

今はチャンスです。日本語教育に関係する各団体の皆さんにお願いしたい。

ぜひ各省庁に要望書を送ってもらいたい。

一つの「運動」にしていかないと、声は届かない。

日本語教育がどんなに大切なものか、基本法が必要なのかを広く

知ってもらうことが大切なんです。

 

手をこまぬいて「誰かがやってくれる」では、物事は動きません。一人ひとりが自分の問題として考え、話し合い、動くことが大切ではないでしょうか。

 

♪   ♪   ♪

 

参考:

「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」(文化庁:2018.3.2)

http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/__icsFiles/afieldfile/2018/06/19/a1401908_03.pdf

 

「外国人との共生社会に向け、進む体制整備

―日本語教育推進基本法案で注目すべき5つのポイント

(田中宝紀:NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者)(2018.5.30)

https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakaiki/20180530-00085831/

1.日本語教育の推進に、国と地方自治体の責任を明示した

2.日本語教育機会を「希望するすべての人」に確保されることを目指した

3.日本語教育の質の向上を図るために、日本語教師の資質・能力と待遇改善に言及した

4.日本語を母語としない子どもの教育に対し、必要な施策を講ずることを明記

5.外国人を雇用する企業に、支援のための努力を求めたこと

Comments are closed, but trackbacks and pingbacks are open.