4月アクラス研修の報告レポート(<著者との対話>『日本語教育に役立つ心理学入門』)

4月のアクラス研修「<著者との対話>『日本語教育に役立つ心理学入門』」(福田倫子さん&向山陽子さん)の報告レポートです。今回は、長崎清美さんが書いてくださいました。どうぞご覧ください。

 

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アクラス研修資料(福田倫子) 180413

アクラス研修資料(向山陽子)20180413

 

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報告者:長崎清美(フリーランス日本語教師)

 

多くの学校で新学期がスタートして間もない、4月13日、『日本語教育に役立つ心理学入門』の著書、文教大学の福田倫子先生、武蔵野大学の向山陽子先生をお招きして研修が行われました。

福田さん参加者は学校、地域などで外国人に日本語を教えている方だけでなく、学校事務として外国人に関わっている方、また、大学院などで心理学を学んでいる方など、さまざまな立場の方がいらっしゃり、このテーマへの関心の高さがうかがえました。

研修案内に、「学習者の内面(心理)に目を向けることで、より適切で効果的な教育について考えることができます」とありましたので、実は、私は、今回の研修を学習者への心理的なサポートを学ぶものだと勝手に想像していました。しかし、研修の最初に向山先生より、心理学という学問は非常に幅広いもので、今回はカウンセリング的なものではなく、「認知心理学」がメインとなるというお話がありました。「認知心理学」…心理学初心者の私は、難しそうな研修の報告者になってしまったことを後悔したのです。

 

 

 

『日本語教育に役立つ心理学入門』の紹介

まず、福田先生より、今回の御著書について紹介がありました。大学での教員養成に携わるなかで、心理学という幅広い学問の中から、日本語教育と関連し②向山さんた領域の内容をまとめた本がなかったため、「ないなら書こう!」と思われたそうです。

本書の特徴は①「初学者にわかりやすい本」、②実践例や事例を豊富に取り込み日本語教師に役立つ知識を中心とするもの、③大学の1セメスターで読み通せるもの、とのことでした。

「初めて日本語教育を学ぶ学部生が読んでも理解できるもの」とのお話に大いに勇気づけられました!

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『日本語教育に役立つ心理学入門』第2章「記憶~記憶って覚えることだけなの?」

その後、第2章「記憶」を例にテキストの例にそって、私たちも授業の流れを体験しました。

(1)プレタスク

「記憶」という言葉から何を連想するのか?などテーマについてまわりの方たちと意見交換を行いました。学生の記憶力の問題から、自分の最近の物覚えの悪さなど、さまざまな話が出て、「記憶」というテーマについてのウォーミングアップを行いました。

(2)これまでに明らかになっていることの紹介

ここでは、まず、一般的に「記憶」=「覚えていること」と解釈されているものが、心理学の研究分野では、「さまざまな情報が 頭に入ってから出ていくまでの流れ全体」を指すこと、また「短期記憶」と「長期記憶」など、基本的な概念や専門用語を確認しました。さらに、私たちが得た情報を頭の中でどう処理しているのか、「ワーキングメモリ」という概念とともに学びました。

(3)確認問題講師の話を聴く参加者

学生気分でドキドキしながら問題に答え、今日学んだことをふりかえることができました。

(4)ポストタスク

学んだ知識を使って、私たちの体験などを心理学的な視点・観点から分析し、理解をより深めます。この章では、「学習者に単語を覚えてほしいときにどのような練習方法を使いますか。それはなぜですか。」というタスクが用意されていました。説明の際には、「リハーサル」など学習した専門用語を使うことがポイントです。

(5)さらに知りたい人のための読書案内

文献、映像資料などが紹介されています。

 

短い時間でしたが、1つの授業を体験してみて、初学者が無理なく学習できる工夫がなされていることがよくわかりました。

 

第二言語習得研究と心理学話し合い

後半は、向山先生より、第二言語習得研究がさまざまな学問領域に関連していること、その中で「心理学」との関係をお話していただきました。ここからは、お話を伺いながら、自由な意見交換も行われました。

第二言語習得研究にはさまざまな課題がありますが、「外国語を学ぶ時、頭の中でどんなことが起きているのか」「上達の早い人と遅い人では何が違うのか」などの問題は、本書でカバーされているものです。

第5章「外国語習得に関係する認知能力」に取り上げられている「言語適性」については、議論が白熱しました。日本語学習者に関わる人なら誰もが「学習者が日本語学習に適性がある」ことを願うはずです。しかし、多くの研究者は「言語適性は変化しない」と考えているそうです。では、言語適性のない学習者は、どうすればいいのでしょうか?私たちには何ができるのでしょうか?

議論は続きました…。

 

おわりに

意見交換をする中で、「授業の前に学習者の言語適性を調べておくのはどうか?それによって、指導方法を考えることができるのではないか?」というご意見コーヒーブレイクがありました。これに対して、向山先生は、「私はこれには反対。先入観を持たずに学生と向かいあうのが大切。第二言語習得は適性だけの問題ではない。」とおっしゃいました。とても心に残りました。

今日の研修は、最初は私には少し難しく感じられ、また心理学を専門に勉強なさっている方たちとの意見交換には圧倒されてしまうこともありました。しかし、参加者の方から「おかゆを食べているような(わかりやすい)プレゼン」とのお話があったように、ご著書をもとにした先生方のお話は、心理学初心者の私にも、よく理解できました。また、日ごろ授業中に行っている練習などが、科学的な理論に基づく意味のあるものであったことなど、いろいろな気づきがありました。何より、この研修を通して、さらに「教師の役割」の重要性に気付かされました。まさに、「学習者の内面(心理)に目を向けることで、より適切で効果的な教育について考えることができます」であったのだと思います。福田先生、向山先生、本当にありがとうございました。

 

ターブルドペールでの懇親会

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