2月アクラス研修の報告レポート「穴埋め俳句による留学生と日本人との協働学習~俳句には日本文化が詰まってる~

2月アクラス研修「穴埋め俳句による留学生と日本人との協働学習~俳句には日本文化が詰まってる~」の報告記事です。今回は、千葉国際学院の中村香理さんがレポーターを務めてくださいました。どうぞご覧ください。

 

お知らせ ➡アクラス研修2018.2.2

 

当日配布資料 ➡アクラス研修 配布用資料48

        アクラス研修会レジュメ(菅長)

♪   ♪   ♪

                                                                           ・

≪2月アクラス研修報告≫                 

報告者:中村香理(千葉国際学院 教務主任)

 

菅長さん午前中雪が舞い、開催が危ぶまれる中、無事に東京外国語大学の菅長理恵先生をお招きして、「穴埋め俳句」について研修が行われました。

参加者は大学や日本語学校等で日本語を教えていらっしゃる先生や日本語教師養成講座の先生、事務担当の方など20名ほどが参加しました。様々な参加動機や目的などとともに、まずは自己紹介からスタートしました。(以下、参加者の動機や目的)

・違うレベルの学習者同士でも、俳句なら一緒にできるのではないか。

・授業に楽しく取り入れるために、どうしたらいいのか学びに来た。

・授業に日本文化を取り入れる際に、俳句はとてもいいと感じた。

・養成講座で、受講生から要望があった。

・取り出し授業の学習者に日本語の面白さを感じてもらうため、自信をつけさせるために俳句が役立つのでは

ないか。

・自分自身の苦手意識を取り除きたい。

・自分自身がまず俳句について知り、楽しんでみたい。

 

 

穴埋め俳句体験

まずは、実際に穴埋め俳句を体験してみました。参加者がペアになって、先生からいただいたお題の俳句の虫食い部分を話し合いました。虫食い部分を考えるだけですが、様々な意見が出て、話し合いも盛り上がりました。

 

 

日本語教育で俳句を扱うことの意義

①言語面

・5 7 5のリズム(日本語はモーラ言語であること/破調や字余りについて)②IMG_5350

・言葉(季語の独特な使い方/助詞の使い方や動詞の省略など/ひらがな・カタカナ)

 

②文化面

・季語・季節感(共通の概念、情景、感情を表す)

・日本人のものの感じ方や考え方(国と国の考え方の違いや同じ部分)

・文化紹介の入り口

 

③活動面

・鑑賞する

・話し合い、意見交換

・自己表現

 

菅長先生は留学生や日本人学生、聴講生を対象に授業で穴埋め俳句を取り入れられているそうです。授業では、色々な国籍や年齢のグループで活動するそうですが、授業を受けた学生からは「穴埋めする際に、手掛かりについてよく考えなければならないので、1つ1つの言葉についてよく考える」「同じグループの国籍が違う人が思いもよらない意見を出すので驚いた」「国が違っても考え方が同じ部分もあることに気がついた」などといった意見があったそうです。虫食い部分を考えるために、より深く読み、グループ活動で対話を通して多様性を知ることができるという点、また「自己表現」の一つとしても俳句をゼロから作るよりハードルが低いにもかかわらず、みんな違うものになるという面白さがとてもよくわかりました。

 

 

五七五のルールの秘密

日本語は英語などとは違いモーラ言語であるので、授業で俳句を扱うときにはSyllableとの違いを理解してもらうことが必要です。俳句の拍としては五七五が当たり前ですが、実は「8-8-8」という隠されたリズムがあり、そのリズムに収まっていれば、字余りや破調でもいいものとして考えられるそうです。実際に、研修では全員で「古池や 蛙飛び込む 水の音」など、いくつかの俳句を全員でコーラスしてみたところ、この「8-8-8」のリズムが自然に体に染みついていることに気がつかされました。

 

 

季語の秘密

季語は俳句のルールのように考えられがちですが、文学史的背景をしり、季語の大切さや便利さがとてもよくわかりました。俳句は元をたどると和歌から始まったそうです。そして、「連歌」といって多人数によって歌をつなげて連作するようになりました。近世に行われた「俳諧(連句)」では、主賓が最初の句を読み、ホストがその句に続けて作るということをしていたそうで、その句の「季語」はその時の情景を表しているので、後でその句を読んだときにその時の情景がぱっと思い出されるような重要な役割を果たしています。「季語」には「一期一会」の精神が含まれているので、単に季節を表すものではないということです。

季語は、季節はもちろん、情景、感情など様々なことを短い言葉で表すことができます。また、組み合わせによっても様々な複雑なことを表すことができます。(例えば、「花」は楽しさ・嬉しさ・喜びを表しますが、「花+曇り」と組み合わせると、そこに憂鬱な気持ちがプラスされます。)

 

季語はルールとしてではなく、「使うと面白いことができる!」ということに気づかされました。コーヒーブレイクIMG_5338

 

 

実践報告

次に、2017年度の東京外国語大学での俳句の授業で取り扱った穴埋め俳句と、学習者の解答や意見についてお話をお聞かせいただきました。菅長先生の授業では留学生が17名、日本人学生が19名、市民聴講生が2名で行ったそうです。授業では「正解を当てるのではなくて、イマジネーションを働かせて自由に考えてみてください。」と勧めたころ、様々な意見や考えが出てとても面白い授業になったということでした。学習者からも、「自由に考えるのが楽しかった」「もっと語彙を増やしたい」などの意見が出たとおっしゃっていました。実際に、授業での解答を先生に説明していただきましたが、本当にバリエーションに富んだ答えや自由な発想に思わず笑ってしまったり、驚かされたりでした。

 

 

俳句とは

菅長先生が授業で俳句を紹介する際、まず「俳句は世界一短い詩です。」と伝えるそうです。ではなぜ俳句は短いのか・・・。西洋の詩は「叙事詩」や「叙情詩」なので説明が必要でどうしても長くなってしまう、一方日本や中国の詩は「叙景詩」で自然をうたうので説明の必要がなく、また「季語」を使うことにより、それだけで時間や場所や感情を表せるので短くていいということでした。そして、「古池や 蛙飛び込む 水の音」のように瞬間を切り取ったり、「ももの花 いもうとはまだ 三つです」のように読む人が想像(「なんてかわいいんだ!」という作者の気持ちを)して完成するものという理由もあるようです。

「俳句は読む人の味わい方で完成するもので、正解はない。」という先生のお言葉が印象的でした。だからこそ、そこに対話が生まれるのだということに気付かされました。

 

 

まとめ

まとめとして、俳句のルールを全員でコーラスしました。先生は授業でも学習者に何回かコーラスしてもらっているとおっしゃっていました。

「は」・・・はっとしたこと/発見したことを

「い」・・・いつかわかるように季語を使って

「く」・・・組み立ては5-7-5

 

 

菅長先生のお話をお聞きして、参加者からは様々な感想が出ました。(以下)懇親会

・俳句はとても奥が深いことが分かった。

・隠されたリズム(8-8-8)に驚いた。

・ぜひ自分でもやってみたい。

・豊かな気持ちになった。

・学習者が語彙を増やすチャンスにもなるのではないか。

・楽しさを共有したい。

・対話につながるということが分かった。

 

最後に、「教師が楽しむことが大切です!」とのお言葉。教師が苦手意識を持っていると学生は楽しめないので、教師自身が楽しむのがコツだそうです。菅長先生は初めから終わりまで、とても楽しそうにお話しいただいたので、参加者も本当に楽しく充実した時間を過ごすことができました。

     ◆    ◇    ◆

研修会終了後、菅長さんから『天真 横井理恵句集』を頂戴しました。これは菅長さんが2001年に出された第一句集です。アクラスの本棚に置かせていただきました。皆さま、お出かけの節にはどうぞご覧ください。有馬朗人氏による「序」より引用させていただきます。

理恵さんの句はきちんとしていて、叙情に流されない乾いた美しさがある。この知性的な乾いた叙情は、今後どのように発展していくであろうか。伝統を継ぐ新人として理恵さんが、更に大きく飛躍させることを期待している。

IMG_20180206_0001

Comments are closed, but trackbacks and pingbacks are open.