ベトナム出身のEPA看護師候補生「イエンさん」と、徳島で再会~ずっと日本の病院で働きたい!~

ベトナム出身のグエン ティ ホン イエンさん(以下、イエンさん)は、今年9月2日にAOTS(元HIDA)が実施した「第6回看護・介護に関わる外国人のためのスピーチコンテスト」に参加しました。「ヤットサー、ヤットヤット」で始まる阿波踊りのかけ声に出てくる「笹山」を取り上げ、「病院は一つの家族。患者さんは一人じゃない。笹山だよ。笹はとても丈夫で、年を取っても転ばないね」というイエンさんのスピーチは、とても温かく心に響きました。そして、職場に、地域社会に溶け込んでいる様子がよくわかるスピーチでした。http://www.aots.jp/jp/project/nihongo/sp2017/index.html

 

 

12月2日に徳島県国際交流協会(以下、TOPIA)の研修会のため徳島入りした私は、野水さん(国際交流・協力シニア

新町川の「ひょうたん島クルーズ」

新町川の「ひょうたん島クルーズ」

コーディネーター)にイエンさんのことを話し、もし可能だったらちょっとでもお会いしたいと伝えました。すると、こんな答えが返ってきたのです。

 

あっ、7月にTOPIAが実施した「日本語弁論大会」に出たイエンさんですね。「十点の花、桜の花」というタイトルでスピーチをしたんですが、とてもすてきなスピーチでした。じゃあ、今から松永病院に電話をしましょう。

 

野水さんは、その場ですぐに病院の方に連絡を取ってくださいました。なんとイエンさんは日曜日は仕事がお休み! そこで野水さんは、イエンさんとのとても魅力的な「再会ツアー」を企画してくださったのです。迅速で、温かい「人つなぎ」に感謝しながら、次の日を待ちました。

みんなと一緒に阿波踊りを体験するイエンさん

みんなと一緒に阿波踊りを体験するイエンさん

 

日曜日の朝、TOPIAに現れたイエンさんは、9月のスピーチコンテストでお会いした時と変わらぬ笑顔で、「先生、びっくりしました!またお会いできて、嬉しいです」と語り始めました。一緒に地域日本語教室を見学し、午後には徳島市の中心部を流れる新町川で「ひょうたん島クルーズ」をしたり、阿波おどり会館で見学&体験をしたり、楽しい時間を過ごしました。その間ずっと、イエンさんのこれまでのこと、これからの夢などを伺うことができ、とても有意義な半日となりました。

 

ベトナムの大学で看護を専攻したイエンさんは、卒業後ベトナムの病院で働いていましたが、ある時、EPA看護福祉士プログラムのことを知りました。小さい時から、日本のアニメや漫画を見て育ったイエンさんは、日本が大好きでした。そこで応募することにしたのですが、まだ日本語は全く分からなかったそうです。

 

プログラムに参加することになったイエンさんは、2014年12月から1年間、ベトナムで日本語を学びました(毎日、

優秀賞を受賞。インタビューを受けています。とても上手な阿波踊りでした!

優秀賞を受賞。インタビューを受けています。とても上手な阿波踊りでした!

朝8時30分~11時45分、14時~16時45分まで授業。夜の自習は20時30分~22時、という日本語漬けの毎日だったそうです)。そして、みごと日本語能力試験N3に合格したイエンさんは、2016年5月に来日し、2ヵ月間千葉の幕張で研修を受け、8月に徳島にある松永病院で働くことになりました。

 

徳島に着いたのは8月、ちょうど阿波踊りの季節でした。初めて体験した阿波踊りに感動し、徳島が大好きになったと言います。また、今回のスピーチコンテストも、その前のTOPIA主催の大会も、すべて松永病院の先生方が「やってみたら。応援するから」と勧めてくださったのだそうです。こうした環境の中で、イエンさんはますます日本の病院でずっと仕事を続けていきたいと強く願うようになりました。

 

イエンさんは、今年2月には徳島県准看護師の試験に合格、7月に実施された日本語能力試験でN2に合格、さらに次の目標は、国家試験合格です(来年3月受験)。休みの日は受験勉強に勤しむイエンさんは、「先生、その次は、N1にチャレンジですね」と、弾けるような笑顔で語ってくれました。

 

 

ここで、TOPIAで拝見した教材についてご紹介したいと思います。日本語教室見学の前に、野水さんより、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」として作成された教材を見せていただきました。その地域で活動する方々が協働して「ご当地版教材」を開発することは、本当にすばらしいことだと改めて思いました。

徳島で暮らす外国人のための日本語副教材

・平成25年度「ええじょ! とくしま」

  ・平成26年度「徳島で暮らす12ヵ月(行事編)」

  ・平成27年度「徳島で暮らす12ヵ月(会話編)」

  ・平成28年度「おもっしょいじょ! とくしま日本語教材例集」

 

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「こけられん」      グエン ティ ホン イエン

皆様、こんにちはIMG_4849

徳島と言えば、

「ヤットサー、ヤットヤット」。

皆様、ご存知ですか。これは、阿波踊りの掛け声です。私は今、徳島県の松永病院で働いています。毎年、お盆に阿波踊りを踊ります。松永病院の連は「こけられん」です。

 

私は去年の8月、徳島に着きました。初めて病院の専門の機械を見ると、まるで、実家のお父さんのバイクの修理に使う道具箱を思い出しました。子供の時、私はよくお父さんの道具箱で遊びました。懐かしく感じました。

 

人の身体はバイクの様だと思います。バイクは長い時間使うと、エンジンが弱くなったりねじが緩くなったりタイヤがよれよれになったりします。その時、修理しないといけない、暫く休ませないといけないこともあります。

 

人の身体の修理は、例えば痛みを抑えるため痛み止めの薬を飲み、骨折をするとギプスを巻くことがあります。けれども、上手に修理しても、治療してもなかなか治らない部分もあります。それは、心じゃないかと思います。IMG_4852

皆様、どう思いますか。

 

私は、楽しい時ずっと笑う、止まらないぐらい笑う。悲しい時、また泣く、泣く。嬉しい時、馬鹿の様に泣きながら笑ったこともあります。やっぱり心の修理、これは難しいですね。

 

むずかしいですが、私は素晴らしい方法を見つけました。松永病院で患者さんの心を支えるため、日本のこよみに基ついて、年末のそば打ち、お正月の門松、2月の節分の日、3月の雛祭りなど色々なイベントを行っています。その中で何よりも素晴らしい活動は、真夏の阿波踊り、「こけられん」です。

 

徳島県の人だから阿波踊りのおはやし、メロディーが流れると心が浮かれ、刺激されます。心を起されて、心の目が覚めます。神経をしびれさせます。

 

また、しびれていた神経が元どおり通じてしまうかの様です。元気な人でも、病気になった人でも、けがをした人でも、皆は阿波踊りを踊ります。松葉杖2本でも、1本でも構わない。歩行器でも車椅子でも構わない。皆が、一つになります。「痛くても心配しないでください、安心してください、元気になってください。」

笑顔で、手を振り、足踏みしたり、頭をぐるぐる回しています。病院が一つの家、一つの家族になります。

皆は、

「ヤットサー、ヤットヤット。IMG_4866

笹山通れば笹ばかり、

大きくなるのは年ばかり、

年をとってもこけられん、

こけてしもても阿波踊り、

ヤットサー、ヤットヤット。」

皆は踊りながら歌います。お祈りします。

 

植物、皆は緑のTシャツを着ている人間の様です。笹もただ、一本一人なら風が吹けば倒れるでしょう。けれど、笹もたくさん植えられて笹山とならば、風が激しく吹いても倒れない。笹、皆はしっかり立って空をまっすぐ向いて伸びます。

患者さんは安心して「一人だけじゃないね、笹山だよ。笹はとても丈夫で、年をとっても転ばないでね」

患者さんの笑い踊る誰かの姿が映っています。耳には阿波踊りのおはやしが届き、心には掛け声が届きます。

 

治療は薬だけじゃないんだ。

 

私はそう思いながら、来年もまた、その次の年も阿波踊りを踊り続けようと思っています。

 

ご清聴どうもありがとうございました。新町川クルーズ①

 

 

 

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