10月アクラス研修の報告(「『文型』や『機能』ではなく、『状況』から出発しよう」<講師:小林ミナ>))

10月のアクラス研修は、講師は、小林ミナさん、テーマは「『文型』や『機能』ではなく、『状況』から出発しよう―『状況』から出発すると日本語授業はこう変わる!―」でした。

講師の小林ミナさん

講師の小林ミナさん

小林さんご自身の日本語教師としての出発点からお話は始まり、これまでの実践を振り返りながら、日本語教育の実践における課題、学習者にどう向き合うべきかなどについて話してくださいました。今回の報告レポーターは、長沼スクール東京日本語学校の高橋えるめさんです。

 

 

パワポ資料→

   当日使用したスライドアップ用

    

 

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報告レポート:「文型」や「機能」ではなく、「状況」から出発しよう

―「状況」から出発すると日本語授業はこう変わる!―

講師:小林ミナ先生(早稲田大学大学院教授)

                                            

                   報告者:高橋えるめ(長沼スクール東京日本語学校)

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「私の七転八倒の歴史をからめてお話しします。インフォーマルにやっていきたいので、どうぞ途中でご質問、ご意見等自由に口をはさんでくださいね。」と始まった小林ミナ先生のお話では、まず、先生の実践の道のりをご紹介いただきました。

「手探り」の東京時代、「率直に頑張った」名古屋時代、「いろいろな壁や疑問にぶつかった」北海道時代、「素直さのかけらもなくなったいま」の早稲田大学での活動など、ユーモアあるお話しぶりに先生が試行錯誤しながらもまっすぐに日本語教育に取り組んでいらっしゃった軌跡がわかり、以後のお話も納得しやすいものになりました。

(の部分、NHK「プロフェッショナル」の字幕が出るときのポーン音を心の中で響かせて読んでいただければと思います。先生の一言一言が心に響きました。)

                                   

「状況」から出発しよう。参加者①

コミュニカティブ・アプローチの言語教育観では、「目標設定」→「文型の提示」→「口慣らし練習」→「転移」つまり、最後の仕上げとして、教室外で実際に使うときのリハーサルとして行われるロールプレイですが、リアルな世界とは何か違うというもやもやを抱えていらっしゃったとのことです。実際に学生からも「私は体調管理を万全にしているので」病気で早退の許可を求める状況はありえない、コンサートのチケットがあったら、友達を誘うのではなく、「金券ショップに売りに行きたい」などの声があり、ロールプレイのフィクション場面と学生のリアルがずれていることを実感。私たちが何のために「ことば」を使っているのか考えたとき、まず文型や機能を使おうというのではなく、状況から始まるはず。それなら授業もそんなふうにデザインしようと考えられたそうです。

                             

ゴールのない会話

ロールプレイも状況から出発しますが、ゴールがある会話。状況から始まり、ゴールのない会話とは?ここで小林先生は一つの状況から各人がどう対応するのかバリエーションを示されました。例えば学食で「友だち2人で食事をしたいが、並んで空いている席がないといった状況」では、座っている人に丁寧にお願いして席を1つずれてもらうだけでなく、聞こえるように「席ないねー」と言ってみたり、後ろに立ってみたりといろいろなふるまいが考えられる。状況から出発すると、いわゆる日本語教育の範疇におさまらないことがあるが、それでもよいのではないか、実際に本人がどうふるまいたいかをサポートすることはできる。「状況から出発する」アプローチの授業では教師学生間で「先生は自分にどんなふるまいを求めているか」ではなく「自分がどうふるまいたいかを言っていい」というラポールを形成するのに初めは時間がかかったとおっしゃいました。

うーん。すばらしい! 学生が話したいことが話せるようになる、これぞ学生主導型授業。先生のクラスが毎回いっぱいになり、サボろうとする学生がいなかったのもうなずけます。

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質問の背景に思いをはせる。参加者②

その後、小林先生が担当され、院生が授業実習を行っている早稲田大学日本語教育研究センターの「「私のにほんご」プロジェクト」をご紹介いただきました。

「日本語で話したいこと/書きたいこと」「日本語がうまく使えなかった経験」を持ちより、「わたしのにほんご」をたくさん増やしていく授業で、その状況で、どう話すか。どう打つかを考えます。例えば、「服の素材を知りたい。」という学習者の目的は何か。実際は家で洗濯したいのか、ケミカルアレルギーなのか、アイロン不要を求めているのか。学習者から出てきたニーズをうのみにして答えるのではなく、なぜ知りたいのかを聞き出すことが必要。また学習者が書いた(打った)ものでも本心を聞いてみないと適切なサポートができないことがあります。質問の背景に思いをはせることが大切という先生の言葉が心に残りました。

                

教師自身の言語生活と教えていることがかけ離れていないか。

「「わたしのにほんご」プロジェクト」で出てきた事例の中にはいわゆる初級文型に入らないものがたくさん出てきます。例えば「めし行く人!」というラインの文。日本人なら誘いの表現だとわかりますが、誘いの機能表現と言われている中にこの名詞句はありません。その辺が日本語教育の盲点になっているのではないか、私たちは日々もっともっと豊かな言語生活をしているはずなのに、教えていることが実際とかけ離れていないか、と問いかけられました。

かつては日本語教師には「既存の文法書を読んで(理解力)、覚える(暗記力)」という静的な文法教育能力が求められていたが、これからは「目の前の学習者の頭の中で起きていることを知り(洞察力)、自らが持っている文法知識、言語分析力を駆使し(瞬発力)、相手に届くように伝えられる(説明力)」という動的な文法教育能力が求められている。これからの日本語教師に求められているのは「・自らの言語生活、言語運用をメタ的に内省する力。・成熟した「ことばの使い手」であること。」

うーん。大変そうだけど、そこに日本語教育の可能性もあり、発展もあるということがわかり始めました。

          

日本語教育のこれまでの50年を振り返り、これからの50年を創りだす。

参加者が配られた「おくすり手帳」に見入る方々

参加者が配られた「おくすり手帳」に見入る方々

日本語教師ならだれでもうんうん、とうなずける豊富な事例や目から鱗の学生主導型プロジェクトのお話を伺い、明日からさらに授業を頑張ろうという気持ちになりました。先生が何年もかけて築かれてきたプロジェクトのエッセンスをぴったり2時間でご紹介いただき、大変得した気分です。これからの50年は無理でもこれからの数年でもいえ数カ月でも創りだせたらいいなと思いました。

以下参加者の皆様の感想です。(すみません。全部は書ききれませんでした。)

・質問の背景に思いをはせることの大切さに気づいた。

・学生主導の「「わたしのにほんご」プロジェクト」がすごいと思った。

・学生が本当に言いたいことを理解するのは大変だが、深く知ることが大切だと思った。

・来週からの授業がワクワクしてきた。

・日本語教師になりすぎず、日本語を教えていきたい。

・アンケートでやりたいことを聞いてするのがいいと思った。

・思い込みを日々外していかなければならない。

・1対1のカンファランスで何を言おうとしているか知ることが大切だと思った。

・カリキュラムが決まっている中でも工夫できる部分があるのではないか。

・これからの50年をつくる教師になりたいと思った。

懇親会20171020

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