イーストウエスト日本語学校スピコン後日談(2)
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2021年9月7日(火)に、中野ゼロホールにて、イーストウエスト日本語学校スピーチコンテストが行われました。未入国の留学生も多く、ホールでの実施とオンライン参加というハイブリッドでの実施でした。スピコン入賞者のスピーチ原稿などは、以下のURLからご覧いただけます。
イーストウエスト日本語学校、今年もゼロホールでスピコン開催~入国できない留学生の「思い」を知ってください~
スピーチを聞き、さらに、一人一人と対話しながら、留学生の「日本語学習への思い」「これからの夢」などについて詳しく聞いていきました。それは、コロナで大変な日々、日本で日本語を学びながら「夢の実現」に向けて頑張っている姿を発信したいと思ったからなのです。今回は、午前クラスの3人に関する発信ですが、今後またこうした「留学生の声」を、いろいろな形で発信していきたいと思っています。コロナに負けずに頑張っている姿、知ってください。
しかし、この後ろに、いまだに入国することができず、不安をいっぱい抱えたままオンラインで授業を受けている留学生が大勢いることを忘れないでいただきたいと思います(長い人は1年半になります)。
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(2)イラストと日本語を学び、中国に「金子みすゞの詩」を広めたい!
~絵本作家をめざす日本語学校生(王軍瑶さん)
URL→M7王軍瑶 スピーチの原稿
■去年はオンライン、今年は大ホールで参加の王さん
~チャレンジし続けることの大切さ~
中国の湖南省出身の王さんは、昨年4月にイーストウエストに入学し、その後ずっとオンラインで授業を受けていました。そして、昨年9月のスピコンでは、「第一歩を踏み出す」というタイトルで、オンライン参加し、午後の部で第1位を獲得しました。王さんの昨年のスピーチは、こんな言葉で締めくくられていました。
みなさんにとっても、日本への留学は、1つの人生の挑戦であり、心配や不安なことはたくさんあるでしょう。でも確かに、第一歩を踏み出したら、親切な人もいて、みなさんの挑戦を助けてくれると思います。留学生活、第一歩を踏み出し、新しい人生のページを開いてみましょう。
http://www.acras.jp/?p=10357 (2020.9.8)
そんな王さんは、昨年11月にやっと日本に入国することができ、今年のスピコンは、中野のゼロホールで参加することができました。しかし、入学当時一緒にオンラインで学んでいた同級生の中には、いまだに入国できず、何と1年半もの間、辛抱強く、日本に行ける日を待ちながら母国でオンライン授業を受けている人も大勢いるのです。王さんは、まだ日本に足を踏み入れることができない友達のことを思いながら、スピーチをしました。
■「日本語の勉強を続ける理由」で、スピコンに再度挑戦
~「私の夢」を伝えたい!~
今年の王さんのテーマは「日本語の勉強を続ける理由」です。王さんは、まずはこう切り出しました。
去年のスピーチコンテストで第一歩を踏み出すということをお話しさせていただ
きました。でも、みなさんは、第一歩を踏み出してから、止めたくなったことは
ありませんか。今回は、そのことについて、私の経験をお話ししたいと思います。
実は、王さんは友達に「日本語は簡単だよ」と言われ、気楽に日本語学習を始めたのです。「はい、わかりました/大丈夫です/ありがとうございます」の3つだけ覚えていたら、日本で生活できるという友達の言葉が、王さんを日本語の世界に誘い込んだのですが、始めてみると~~~。そこで、王さんは日本語の勉強を辞めてしまったのです。
しかし、ある時、金子みすゞの詩に触れたことで、「これは、素晴らしい!」と、また日本語の世界に戻ることになったのです。それは、「積もった雪」でした。ちょっと引用してみましょう。
「積もった雪」
上の雪
さむかろな
つめたい月がさしていて。
下の雪
重かろな
何百人ものせていて。
中の雪
さみしかろな
空も地面もみえないで。
降っている雪(上の雪)と積もった雪(下の雪)だけではなく、「中の雪」にまで思いを馳せたことに、感動し、「こんな考え方もあるんだ!」と、ぜひ金子みすゞの作品、さらには、金子みすゞについて書かれた日本の文章を読みたいと思ったのだそうです。
■「金子みすゞ」の詩にイラストをつけて、中国に広めたい!~
~日本語とイラストを学ぶ理由~
王さんは、日本に留学する前は、イラストレーターとして仕事をしていました。そして、将来、金子みすゞの作品に自分でイラストをつけて、絵本として中国の子供たちに読んでもらいたいと思ったのです。王さんは将来の夢について、次のように語ってくれました。
今の子どもたちは勉強ばかりですね。ちょっと苦しいと思います。そのために、
休みの時間に、面白い絵本を読んだらいいですね。絵本は、心をやさしくします。
人生の態度は以前より、積極的になります。それは、日本の絵本作家を見た感覚です。
金子みすゞの詩に魅せられ、それを中国に広めていきたいという思いについては、このように話してくれました。
金子みすゞの詩は、ちょっと見ると、子どもっぽいですね。でも、繰り返し、繰り返し
読むと、意味が深いです。すごく深い。でも、残念ですけど、中国で金子みすゞのこと
を知っている人は、とても少ないです。中国の漢字で書いた詩が少しだけあります。
それがとても残念です。
王さんは、iPadでたくさんのイラストを見せてくれました。来年4月から大学院でイラストを学ぶため、今、受験準備をしている王さんは、たくさんのイラストを描いているのだそうです。何とも温かく、やわらかい雰囲気で、見ているだけで心がほっこりしてくるイラストです。その中から、2つご紹介しましょう。
王さんのように、日本の文学、日本語に魅せられて、それを中国の人々と日本とを「つなぐ力」になりたいと思ってくれる留学生、本当に素晴らしい存在です。
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■『できる日本語中級』には、「金子みすゞ」が登場!
~「みんなちがって、みんないい」を軸にして・・・~
『できる日本語中級』9課「言葉を楽しむ」には、5つのタスクがありますが、タスク1は【見つけた!】では、金子みすゞの詩「わたしと小鳥とすずと」を取り上げました。
これを学んだ時の王さんの気持ちを聞いてみました。
もちろんこの詩を知っていました。だから教科書でこの詩を見て、
本当に嬉しかったです。授業も楽しかった!みんなでいろんな考え
を話しました。
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『できる日本語』は、「人・社会とつながる力」を養うことを大切にし、「対話力」に重きを置いて作られた教科書です。学習者が語りたくなる題材を入れ、日本語の学びを通して、自分の人生に向き合い、社会のあり方を考えることができるテーマ・リソースを入れ込みました。「金子みすゞ」の詩から多様な物の見方に目を向け、「遺体捜索に人生をかける小林尚礼さんの生き方」(20課)から自分の人生を見つめ、震災翌日の手書き「石巻日々新聞」(15課)からメディアの在り方を考える・・・そんな日本語の学びを追い続けたいと思います。
では、「金子みすゞの詩」の中から「大漁」を紹介して終わりにしたいと思います。私が「詩:大漁」を持ちだすと、王さんは、「金子みすゞの詩の中で一番好きなのが『大漁』です。魚の角度(視点)で見ているのがいいです」と笑顔で語ってくれました。絵本作家をめざす王さん、頑張ってくださいね!
「大漁」
朝焼けだ小焼だ、大漁だ
大羽鰮(おおばいわし)の大漁だ。
浜は祭りのようだけど、
海の中では何万の、
鰮(いわし)のとむらいするだろう。