実施報告「中野区長と外国人留学生の懇談会~ワクチン接種から考える外国人住民への情報提供のあり方~」(2021.7.7)

山脇ゼミ主催、中野区協力という形での「中野区長と外国人住民の懇談会」を始めてから今年で8回目となります(第1回は、2014年12月)。

全体で話し合っている時の写真です

全体で話し合っている時の写真です。

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コロナの影響で、昨年、今年とオンラインでの実施となりましたが、区長、大学生、留学生の間で活発な意見交換がなされました。

区長との懇談会での登壇者は、酒井区長と山脇教授、そして、以下の6人の学生さん達です。昨年は、登壇者もそれぞれZOOMによる参加でしたが、今年は登壇者は全員明治大学に集まり、参加者はZOOMで聴くというスタイルとなりました。今回のテーマは、以下のとおりです。

   

 *ワクチンなどのコロナウイルスに関する情報について、外国人住民が困ることは?

   *外国人住民にわかりやすく情報を伝えるには?

   *約1.7万人(令和3年4月現在)の外国人住民を抱える中野区ができることは?

登壇した学生さんについての情報は以下のとおりです。

7.8登壇者

 

■山脇ゼミによる調査報告~自治体による情報発信の違い

基本的な情報として、中野区の外国人住民についての概要説明がありました。

 中野区の外国人住民: 17,000人

   全住民に対する外国人住民の比率は、5.1%であり、23区では8番目

中野区の取り組みに関しては、以下のような説明がありました。

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◆コロナ情報をHPに「やさしい日本語」で記載。ただし、ワクチンに関しては言及なし。

◆ワクチン接種コールセンターが、日本語、英語、中国語、韓国語で予約可能

◆国際交流協会がワクチン接種に関して「やさしい日本語」で説明

                 

続いて、豊島区、新宿区、大田区、江戸川区、港区の状況説明、さらには東京都全体の取り組みや、他県での説明もあり、自治体によって取り組み方の違いが大きいことが分かりました。

報告の最後に、さまざまな事例から、「役所の多文化共生担当とワクチンン担当の連携が重要だと思いました」と結んでいましたが、これはとても重要なポイントだと思います。今回の懇談会で終わらせるのではなく、ぜひ「大学生からの提言」として、調べたことや懇談会での意見交換で学んだことをもとに発信をしていってほしいと思いました。

 

豊島区の取り組み

豊島区の取り組み

■ディスカッション~①ワクチンなどの情報で困っていること~

日本語が堪能な留学生が参加していましたが、それでも次のような困難点が挙げられていました。

(1)

いろいろな郵便物が来るので、「関係ない」と思って捨てそうになった。確かにワクチンとは書いてあったが、他の言語でも記されているとよかった。

(2)

理解はできたが、あまりにも文字が多く、専門用語が難しいのは問題だ。

(3)

まだ日本語があまり得意じゃない人にとっては、理解するのは非常に難しいと思う。

(4)

予診票には、翻訳があるが、それを見ながら「日本語の予診票」に書き込むのは大変だ。

(5)

グーグル翻訳があるが、その翻訳に間違いがあるケースがある(特に専門用語)。特に、アラビア語は、言語の構造が違うので、グーグル翻訳だと問題が出てくる。

(6)

「サイトでは多言語で対応」と言っても、そのページに辿りつくまでが大変。もっとトップページに 「やさしい日本語」などで記されていて、そこをクリックすれば分かるような仕組みがほしい。

(7)役所からの手紙は、あいさつ部分というか、前置きが難しい言葉で、しかも長すぎるので、読みたくなくなる。

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当事者の意見ほど貴重なものはありません。最後に酒井区長がおっしゃっていた言葉が印象に

残りました。

   「今回のワクチン接種は、特別なことであり、外国人住民への対応が不十分な点もあった

    ことがよくわかりました。今後、こういうようなことがあった場合、今回のように皆さん

    の意見を事前に聞いて調べることが大切だと分かりました。ご協力をお願いします」

                            

「事前に当事者に聞く」ということは、とても重要です。そういう方向に行くことは、望ましいことではありますが、できることなら、「日常的に、当事者の<声>を聴く」ことをより広く、より深く実施していただきたいと思いました。

 中野区長と外国人留学生の懇談会

■ディスカッション~②情報の発信のあり方を考える~

 ①で出た問題を、いかに解決していったらよいかについても意見交換が行われました。

1)   サイトの情報の提示法を再考する

トップページに「やさしい日本語」で表示し、そこをクリックすれば必要な情報を得られる工夫をする。

2)   簡潔な文章にする

今のように敬語を使った丁寧な前置きが長いと、読むのが大変であり、情報格差は縮まらない。文書の見直しが必要である。

3)   スマホなどの活用を考える

手紙よりも、ふだん使っているスマホで情報を流すことを考える必要がある。そのほうが外国人には情報を受け取りやすいのではないか。

4)   きめ細かな情報発信を考える

たとえば、QRコードは便利でよいが、その先が難しい日本語では、情報を得ることができない。

                          

最近では、多言語対応や「やさしい日本語」での発信などさまざまな工夫がなされていますが、発信者側は、それで達成できたと考えるのではなく、「発信した情報が、果たして外国人住民に伝わっているのか。入手する際に、どんな点で困難を感じているのか」といったことを常に念頭に置いておくことが求められます。

そうした意味では、今回の区長との懇談会は意義のあるものでしたが、より多くの「外国人住民との対話の場」を設けることが喫緊の課題ではないでしょうか。そして、何よりも外国人住民を「ともに地域社会をつくる仲間」であるという意識が、とても重要であると思います。

 

■参加者からの意見

ディスカッションが終わってからは、「一般参加者との質疑応答タイム」となりました。

1)   入管庁のスタッフ

   お手紙が「日本人でも長くて、読みにくい」という話を聞いて、ここは考える必要があると

   思った。入管庁でも外国人サイトがあるが、あること自体どこまで知られているか、今後

   そのあたりも考える必要がある。

2)   都庁のスタッフ

   留学生も個別に、分かる、わからないという点が、それぞれ異なるということが分かった。

   今後は、もっときめ細かに、何がわからないのかを考えて取り組んでいきたい。

3)   司法通訳の研修講座を実施している方

   『なかの生活ガイドブック』を見ても、「避難所」などの難しい言葉が出てくる。

   もっと「やさしい日本語」で書くことが必要だと思う。

 

■山脇教授による「まとめのコメント」

1)

ゼミ生が「ワクチン接種」という切り口で23区などを調べた。その中で、豊島区が優れた取り組みをしていることが分かった。昨年12月に山脇ゼミが協力した「やさしい日本語」のワークショップがあり、広報課の人が複数参加。その人たちが今回のワクチン接種のサイトを作ったと聞いた。これまでの取り組みが生かされてきた結果だと思う。

2)

順天堂大学のグループが「ワクチン接種」に関する動画を作成し、アップした。こういう動画の情報がうまく伝わり、活用してもらえたら、と思う。

                      

        参考:新型コロナワクチン接種を外国人向けに「やさしい日本語」で

            ~接種現場で使えるフレーズを動画で公開

https://www.juntendo.ac.jp/news/20210701-02.html

3)

連携が必要だということが出てきたが、都道府県においても、国においても同様である。ぜひ「行政の横の連携」を作ってほしい。ある調査によると、全国のベトナム人の6割が「ワクチン接種は無料である」ということを知らなかったという結果が報告されている。


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区長を囲んで外国人住民との意見交換の場があり、その場を大学生が中心となり企画、運営していることは、注目に値します。今後は、こうした輪が、もっともっと日常レベルで広がっていくことが望まれます。そうすることで、全国的に行われている「対症療法的な取り組み」ではなく、根本的な改革につながっていきます。起こっていることに対して「何を、どうすればいいのか」だけではなく、「なぜそういうことが起こるのだろうか。その人たちは、どういう思いで暮らしているのだろうか」といった視点が、マジョリティ側に求められているのではないでしょうか。

                  

参考:2020年実施第7回  「明治大学山脇ゼミ主催「中野区長&外国人住民『コロナから考える緊急時の外国人住民への対応』

 http://www.acras.jp/?p=9967

   ※写真・資料は山脇さんからの提供によるものです。

参考:記事は、こちらからPDFでダウンロードすることができます(写真は入っていません)。

記事:区長と外国人住民との懇談会

追記(2021.7.12)

CLAIRの多文化共生ポータルサイトに、山脇さんが記事をお書きになりました。以下のURLから見ることが出来ます。

http://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/contents/115254.php?fbclid=IwAR3Nx92nyHwqcCQ2f5QsVtMqLzl87I8jwdKSk7bjDxMnJJWOxl4pFoePwVU

明治大学の学生さんの記事は、明治大学のサイトにアップされました。

7.8記念写真

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