コロナ禍の日本語学校の1年を振り返る ~学習者に寄り添い、さまざまな人々との対話を重ねた365日~

突然やってきたwithコロナ時代、それぞれの教育機関は戸惑い、悩み、模索し続けました。そんな中で日本語学校も、大変な状況に必死に対応しながらやってきました。もちろん日本に在住する外国人も対象ではありますが、多くの学習者は海外からやってくる方々です。日本に留学予定の外国人が入国できず、将来に不安を抱えての日々の挑戦でした。

 

私が、10年前まで勤務していた中野区にあるイーストウエスト日本語学校も同様です。3月上旬の東京都による「小中高校への休校要請」を受け、まずは2週間の休校を決めました。その間に、「今後、どうしたら学習者の学びに寄り添えるか」について考え、休校明けの3月16日には、初めての同期型オンライン授業をスタートさせたのです。それが激動の1年のスタートでした。

 

無事、3月5日に卒業式を終えた今、私自身がサイトにアップした記事をもとに、1年間を振り返ってみたいと思います。詳しくは、それぞれの記事をお読みください。その記事の中にまた、関連する記事のURLも載っています。ぜひ、奮闘し続けた日本語学校の姿、長年にわたって地域社会との絆を大切にして活動している日本語学校の存在を知っていただきたいと思います。

 

マイナスのイメージばかりがクローズアップされる日本語学校ですが、実は、真剣に留学生に向き合い、「日本留学の入り口」としての役割を果たしているのが日本語学校です。また、日本語学校は、長い年月をかけ、地域社会との信頼関係を構築し、地域住民とともに歩んでいます。そんなことを、少しでも読み取っていただけたら、という思いで記事を作成しました。

 

 

(1)2020年5 月19日

  焼津の「黒潮」から、イーストウエスト日本語学校へ「マスクとお茶」のプレゼント!

      http://www.acras.jp/?p=9649

 

イーストウエストが、静岡県焼津にある「黒潮」と毎年夏休みとお正月のホームステイを始めたのは、30年前のことになります。一人の学生さんの依頼で、「ホームステイ希望者」を募ったのがきっかけでした。私自身、引率して出かけていき、翌朝、一緒に地引網を引いたことも良い思い出です。

 

今では、卒業生たちにとって「日本の実家」となり、「新婚旅行は焼津!」という学生さんがいるほど、太く、長い絆になっています。卒業生の動向を知りたいときには、焼津のホストファミリーにお尋ねすることがあるほどです。こんな「日本の家族」を持てた留学生たちは幸せです。

 

 

(2)2020年7月2日

  「学習者の学びを止めたくない!」、3月からオンライン授業を実施!

     ~イーストウエスト日本語学校の取り組みから~

    http://www.acras.jp/?p=9952

 

3月に、東京都より「新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、都立学校について臨時休業の方針」が提示され、イーストウエストでは同様に休校措置とし、そこで、今後について真剣に話し合いました。休校措置の期間は、区などによって異なりますが(多くが、3月2日~25日)、2週間を準備期間のための休校とし、3月16日からはZOOMによる同期型授業を中心として実施することにしました。

 

イーストウエスト日本語学校は、どちらかというとICT化が遅れている学校でしたが、「学習者の学びを止めないためにはどうしたらいいのか」が最重要課題であり、協働性を発揮し、オンライン授業を実現したのです。その後、新学期を迎え、4月6日から授業スタートし、1年間を<オンラインのみ→対面&オンライン→オンラインのみ→対面&オンライン>と、常に状況を見ながら進めてきました。

 

 

(3)2020年7月2日

  明治大学山脇ゼミ主催「中野区長&外国住民

『コロナから考える緊急時の外国人住民への対応』

    http://www.acras.jp/?p=9967

 

そんな中でも、「学習者にできるだけ外との交流」を持ってほしいと、オンラインによるさまざまな活動にも目を向けてきました。「中野区長&外国住民の懇談会」には、これまでも参加してきましたが、今年はオンラインでの参加となりました。

 

今回も2名の留学生が参加、韓国出身のウ・スビンさんと、中国出身のチョウ・シンメイさんがしっかりと意見を伝えてくれました。

 

 

(4)2020年9月7日

  ホールでのスピーチを聞いて、さらに来日の夢が膨らむ未入国の日本語学校生

     ~対面とオンラインのハイブリッド型スピーチ大会実施(2020.9.7)

http://www.acras.jp/?p=10357

 

スピコンを中止とする機関が多く見られましたが、区の施設である中野ゼロホールと相談をしながら、準備を進めました。「区が施設の使用をOKということなのだから、あとは私たちの決断」と、ホールを使っての対面とオンラインでの実施と相成りました。

 

母国で、孤独な中、夢のために日本語を学び続けている学生さん達には、大きな刺激となりました。そして、まだ画面上でしか会ったことのないクラスメートから温かい「応援メッセージ」を受け、感動している出場者もいました。このスピーチコンテストは、コロナ禍で必死に学んでいる学生さん達を結びつける役割も果たしてくれました。

 

 

(5)2020年12月20日

  俳句を通した日台の交流活動

~イーストウエスト日本語学校の俳句コンテストを通して~

http://www.acras.jp/?p=10709

イーストウエスト日本語学校では、11月になると「学内俳句コンテスト」を実施します。今年も、10月にオンラインで初級授業をスタートしたクラスも、クラスごとの俳句授業、そしてコンテストにも「クラス代表句」を出し、学内全クラス参加の俳句コンテストとなりました。いつものことながら、選句は先生方に加え、地元のお店や地域に暮らす方々です。

 

さらに嬉しいことに、「選句依頼」のシートを見た台湾で教える先生達が、それを授業で使い、台湾の日本語学習者からたくさんのコメントを送ってくださったのです。コロナ禍で縮こまりがちな日本語学習者が、こうして海をこえ、つながっていきました。

 

 

(6)2021年1月29日

  「イーストウエスト日本語学校 落語鑑賞会」実施!

    ~教師で力を合わせて、万全の対策で臨む~

   http://www.acras.jp/?p=10810

 

1月になると毎年、落語鑑賞会を実施しています。これも、既に20年以上になりますが、毎回、2席の落語に加え、たくさんの小噺、落語の歴史、着物の着方などについて桂扇生師匠が話をしてくださいます。今年は、コロナ禍ということで、学生さんが自作の小噺」を高台に上がって披露することは止めました。

 

今年の演目は、「まんじゅう怖い」と「初天神」でした。学生さんたちは本当に楽しそうに笑い転げていました。上述の記事には、学生さんの直筆の感想文もありますので、どうぞご覧ください。

 

 

(7)2021年2月21日

  能ワークショップに大喜びの留学生!

     ~地域社会に根付くイーストウエスト日本語学校

http://www.acras.jp/?p=10891

 

続いて2月は、ご近所の武田修能館にて「能ワークショップ」です。コロナ禍なので、いつもの半分の学生さんしか参加することができません。参加できたクラスは、本当にラッキーな人達です。お仕舞、お面の説明、体で体験、謡いのお稽古・・・とても楽しそうにやっていました。

 

今年は、世阿弥の『風姿花伝』から言葉を引用し、また、能楽師の武田文志さんご自身の大変だった「ある体験」も話してくださいました。それは、留学生たちにとって大きな励ましとなり、能を楽しむだけではなく、さまざまな学びがあった貴重な時間となりました。

 

 

(8)2021年2月15日

  留学生との川柳を通した交流~俳句から川柳へ~

    http://www.acras.jp/?p=10877

 

俳句コンテストについては、(5)でお話ししましたが、今年は、あるクラスから「川柳を作ったので、感想をお願いします」という依頼が舞い込みました。皆さんからの川柳は、コロナ禍での大変さがよく出た、時世にあった魅力的なものばかり。

 

せっかくの機会なので、担当教師を通じて、メールのやり取りをさせてもらいました。どんな時でも、日本語学習に励み、日本の文化を楽しむ心は大切であり、それが日本語学習をさらに楽しいものにしてくれるのだと思います。

 

 

(9)2021年3月5日

   イーストウエスト日本語学校の卒業式で「なでしこ作文コンテスト」の結果発表

   http://www.acras.jp/?p=10937

 

この作文コンテストは、もう13回目となります。「なでしこ会」とは、平均年齢84歳という方々が実施していらっしゃるボランティア団体です。毎週集まって、布巾やバックなどを作り、それを売った収益を、国際交流関係や留学生への支援に当ててくださっています。

 

13年前、「寄付をしたいので・・・」というお申し出に、「では、作文コンテストをして、そこに賞金として出していただけませんか」という提案をしました。それが、このコンテストの始まりです。それは、授賞者である方々にとっても励みとなり、「生きる力」につながっていったと伺い、地域社会に根付く日本語学校の存在意義を改めて感じました。

 

 

(10)2021年3月11日

   3.11の夜、地域中民から温かいサポートを受けた高校生たち(タイ&韓国)

    ~イーストウエスト日本語学校の事例から~

http://www.acras.jp/?p=10975

 

3.11からちょうど今日で10年となります。今でも不自由な生活を強いられていらっしゃる方がいることを思うと、震災の傷跡の深さを感じます。この日、ホストファミリー宅に帰ることができなくなった「来日直後の高校生たち」は、イーストウエスト日本語学校の近くにある集会所に泊めてもらうことになりました。

 

宿泊禁止の集会所には、座布団類しかなかったため、ありったけのお座布団を敷き詰め、コートをかぶって寝ていたのですが……。しばらくすると、地元の方々から毛布が届けられたのです。そして、朝になると、握りたてのおにぎりとお茶が届きました。それぞれが大変な時に、来たばかりの外国の高校生たちへの温かい配慮。「地域社会の中の日本語学校」であることの幸せを、改めて感じた1日でした。

 

 

(11)2021年3月11日

   コロナ禍でも「子ども食堂」のボランティアに参加する日本語学校の学生たち

    ~「ともに地域社会をつくる仲間」として~

    http://www.acras.jp/?p=11006

 

イーストウエスト日本語学校では、学習者は支えてもらうだけではなく、「ともに地域社会をつくる一員」という考え方を大切にしています。これまでも、「一人暮らしのお年寄りへのお弁当配り」「なでしこ会の布巾づくり」など、さまざまなボランティア活動に参加してきました。

 

数年前には、ご近所にある「子ども食堂」でボランティアをするようになりました。コロナ禍で、昨年8月まではクローズしていた「子ども食堂」ですが、9月以降、お弁当のテイクアウトという形で、スタートしました。日本のいろいろな姿を見、さまざまな人々と対話を重ねてほしいと思っています。

 

 

(12)2021年3月14日

   図書館で生まれた「温かい出会い」

   ~ちょっとした「声かけ」が、落ち込んでいた留学生を・・・~

    http://www.acras.jp/?p=11057

 

(9)の「なでしこ作文コンテスト」に載っていた優秀賞「トン ジャチュンさん」の作文から、また一つ「地元の方との新たな出会い」が生まれました。トンさんの作文には、こんなことが書かれていました。

 

その4か月間、午前学校の授業が終わってからすぐ図書館へ行き、純樹先生と閉館

まで試験を準備し、家で夕食後、11時から夜3時にかけて学び、睡眠時間は更に

4時間に減らしました。

 

3月12日にアクラスで、トンさんと彼を支え続けてくださった磯貝純樹さんとお会いしました。そして、図書館での2人の出会いから始まり、さまざまなことを伺うことができました。イーストウエストの先生方の熱心な進路指導はもちろんですが、こうした日本人の温かいサポートが、一時は悲嘆にくれていたトンさんを筑波大学大学院合格へと導いてくれたのです。もう少しトンさんの作文を引用したいと思います。

 

すごく落ち込んでいました。けれども、何とも幸いなことに、図書館で純樹という日本人

の先生に出会いました。「日本語がよく話せるよ」と褒めてくれたり、会話や試験の面接

を練習してくれたり、自信が次第に戻ってきました。

 

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2021年3月15日現在、まだ東京では非常事態宣言が続いています。4月生の入国は、順調に進めることができるのでしょうか。日本中、世界中が「明日が見えない」不安に駆られていますが、そんな中で日本語学校は、「日本留学の入り口」「世界の人々をつなぐ場」として、地域社会とともに日々努力を重ねています。そんなことを一人でも多くの方に知っていただきたいと思い、イーストウエスト日本語学校のたくさんの活動の中から、12のことを取り上げ、一年を綴ってみました。

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