東京・中野にあるイーストウエスト日本語学校は、コロナ禍において、いち早くオンライン授業をスタートさせ(3月16日より)、その後は様子を見ながら対面授業へと切り替えていきました。http://www.acras.jp/?p=9952
9月1日現在、午前12クラス、午後8クラスとなっていますが、4月新入生はほとんどが未入国学生であり、オンライン授業はいまだ続いています。
そんな中での「9月に実施予定のスピーチコンテスト」、実際にどうやってやるか教務、事務、教員間での話し合いが続きました。その結果、広い会場(中野ゼロホール)で、充分間隔を空け、感染症対策も徹底したうえで、9月7日(月)に午前の部と午後の部に分けて行うことになりました。
午前中は、2019年4月と10月入学の学習者であることから殆どが教室で授業を受けている学生さん達でした。しかし、午後は今年4月入学の学生さんが大半であり、毎日の授業はオンラインと対面とのハイブリッド授業です。今回のスピコンも例年通り、スピーカーへのクラス応援メッセージなども、とても温かい、心のこもったものでした。
もちろん一日も早い「普通の授業」が望まれますが、オンライン授業、ハイブリッド授業の可能性を強く感じました。
スピーチの報告は、オンライン参加となった午後の3人のスピーチを中心にお伝えしたいと思います。3月以降、コロナ情報、日本や母国の対応に振り回され、いまだ入国予定の立っていない新入生の辛さ・不安はどんなにか大きいことでしょう。それでも、自分の選択や日本語学校を信じ、一度も会ったことのないクラスの仲間達と夢を語り合い、先生方との対話を楽しんでいる未入国学生……。私達は、一日も早く画面上ではなく、日本語学校の教室・ロビーで会えることを願っています。そんな思いを、多くの方に知っていただきたく、未入国の4月新入生のスピーチにフォーカスすることにしました。
まずは午後の部の入賞者を記載します。★が付いている人が、未入国の新入生です。台湾やロシアの学生さんは、入国拒否の前に来日していたため、対面授業を受けることができていますが、中国の新入生は皆さん母国から出ることができず、いまだオンラインでの参加です。
午後の部
1位 王軍瑶さん(中国・女性)★
2位 易松静さん(中国・女性)★
3位 林子琇さん(台湾・女性)
3位 コヴァリョフ・エフゲニーさん(ロシア・男性)
観客賞 何煥祥さん(中国・男性)★
いったいこんな状態がいつまで続くのでしょうか。一刻も早く留学生の入国を許可してもらいたいものです。これまでの仕事を辞め、人生を日本留学にかけた人たちは、いつまで待てばいいのか……と不安が募ってきます。それでも、毎日元気にZOOM授業に参加し、コミュニティを作り、めきめき日本語を上達させている姿には、胸を打たれます。
では、入賞した5人の中から、オンライン参加の3人のスピーチを紹介します。王さんと何さんのクラスは、全員オンラインでの授業、易さんのクラスは、1人だけ対面授業という状況です。
優勝した王さんも4月入学の未入国の学生さんであり、ちょうど『できる日本語初中級』が終了し、「中級」に入ったところで、日本語学習がますます面白くなってきています。オンラインではありますが、日本語の学びを通してさまざまな「つながり」を楽しみながら、一日も早く念願の日本留学という新しい第一歩を踏み出したいと願っている王さんです。
★王軍瑶さん「第一歩を踏み出す」(第1位)
人生には、新しいことをやってみたり、怖いことをやってみたりといった、たくさんの挑戦があると思います。
今から、私の挑戦の経験についてお話ししたいと思います。
私は、子どもの頃から旅行が好きでいつも家族や友達と一緒に旅行へ行っていました。でも、私は、知らない人と話すことが苦手なので1人で旅行に行こうと思ったことはありませんでした。それが、1人で旅行をすることになったんです。仕事を始めたばかりのころ、仕事や都会の一人暮らしが大変で、旅行に行きたくなりました。でも、同僚と旅行に行けば、仕事の話をしてしまうので、初めて一人で旅行に行くことに決めました。
出発の2日前から心臓がドキドキして、1人で旅行するのは新しいことも危ないこともあるかもしれないことから、ネットでホテルやガイドブックなどを調べました。重慶に行ったその日の夜に思わぬことが起きました。道に迷って、ホテルに着いたのがとても遅くなったので、予約した部屋は違うお客さんが泊まることになっていました。旅行シーズンだったので、ほとんどのホテルが満室でした。スタッフさんは今、6人部屋ならあると言ってくれました。私は朝からずっと出かけていたので疲れましたから、このホテルの6人部屋に泊まるしかありませんでした。
このとき、他のゲストと会話するのが本当に難しかったです。とても緊張して恥ずかしくて、うまく話せませんでした。それに、他の人と同じ部屋に泊まることは怖いと感じました。でも、旅行シーズンでスタッフさんは忙しかったのにとても親切で、ずっと励ましてくださったし、スタッフさんは早めに私の状況を同じ部屋の人に説明してくださいました。スタッフさんに感謝しています。
初めて知らない人と泊まる不安と緊張で、朝6時に同じ部屋のゲストが出発するまで全然寝られませんでした。私は3日間、同じ部屋に泊まっていましたが、その間、5回短い会話をしただけで、ほとんど会話をしませんでした。でも、この旅行の経験で、親切な人がたくさんいることに気がつきましたし、知らない人と話すことがあまり怖くなくなりました。それで、この旅行から帰ってきてからは、知らない人と話すときでもだんだん緊張しなくなりました。
みなさんにとっても、日本への留学は、1つの人生の挑戦であり、心配や不安なことはたくさんあるでしょう。でも確かに、第一歩を踏み出したら、親切な人もいて、みなさんの挑戦を助けてくれると思います。留学生活、第一歩を踏み出し、新しい人生のページを開いてみましょう。
★易松静さん「逃げるは恥だが役に立つ」(第2位)
皆さんはどんな目標を持って、日本へ留学することを決めましたか。
私は通訳になりたいと思って、留学を決めました。
私は大学のインターンシップから、三つ仕事をしました。
最初の会社は給料の支払いがいつも遅れる会社で、会社の経営状況が心配で、辞めました。
私は経営状況が心配で、最初の会社を辞めたので、二つ目の会社を選ぶとき、ちゃんと会社の状況を調べました。二つ目の会社はいい会社でした。でも、上司は残業が大好きで、ある日、定時で帰る人が会社を辞めさせられました。残業が仕事の目的になっているようで、その会社の雰囲気が嫌になって、会社を辞めました。
三つ目の会社で、私はようやく理想的な会社を見つけたと思いました。仕事も楽でした。でも、給料が少なくて、このままじゃ貯金もできないと思いました。そして、その会社を辞めました。
話は変わりますが、皆さんは暇なときとか、一人でご飯を食べる時などに、ドラマや映画などを見ますか。私は御飯を食べるとき、必ず何か見ます。おもしろいドラマがなかったら、ご飯のおいしさが減っていくような気がします。
ある日、私はネットで「逃げるは恥だが役に立つ」という日本のドラマを見つけました。タイトルが面白いと思って、意味を調べてみました。それはハンガリーのことわざで、「どんなに恥ずかしい逃げ方だったとしても、生き抜くことが大切だ」という意味でした。
私は大学のインターンシップから2年の間に3つも仕事を辞めましたが、私自身もすぐに会社を辞めることはよくないと思っていました。でも、このドラマのタイトルの意味を知って、「逃げることは悪いことじゃない」と思うことができました。
生活をしていると、いろいろな問題にぶつかります。
もし、頑張っても解決できない問題があったら、自分のために、ちょっと逃げてみるのはどうでしょうか。他のことをして努力を続けていると、別の方向から問題が解決できることもあるかもしれません。
私は、三つの仕事で迷って、悩んで、逃げて、新しい目標を探しました。そして、留学を決めました。自分に力をつけて、私にしかできない仕事をやりたくて通訳になろうと思ったからです。
今、私は逃げたことを恥ずかしいと思っていません。将来に向かって、これから積極的に進んでいこうと思っています。
★何煥祥さん「私から見た日本」(観客賞)
みなさんは、日本といえば、どのような映像が浮かびますか。4月の満開の桜ですか。
高くそびえる富士山ですか。京都アニメーションの優秀なアニメですか。それとも夏の隅田川の花火ですか。日本は文化が豊かで、歴史が長く、科学技術が発達した国として知られています。こんな日本から私は、たくさんの影響を受けています。
初めて日本語に触れて、日本という国を知ったのは5歳の時です。そのとき、ウルトラマンというとても人気があるアニメが私をひきつけました。その時の私は、毎日、時間通りにテレビの前に座って見ていました。そして、見終わったら楽しくて、友達に新しい話の内容を話しに行きました。でも、巨大なヒーローとモンスターが都市で戦っているのを見ると、面白かったですが、ちょっと怖かったです。日本は危険な国だと思いました。
中学生の時、ちょうど日本のアニメが中国のインターネットで人気になり始めました。
日本のアニメは美しい映像と素晴らしいストーリーで多くの若者を引きつけました。
わたしもネットでいろいろな日本のアニメと漫画を見ました。一番印象に残っているのは<ナルト>というアニメです。その戦闘シーンと素晴らしいストーリーに、私は魅力を感じました。見れば見るほど面白くなりました。その中で、ある渦巻鳴人の言葉に出会いました。
それは「まっすぐ自分の言葉は曲げねぇ」という言葉です。このセリフはナルトが試験のとき話した言葉です。初めて聞いたとき、強い印象を受けました。これは「一度言ったことは曲げない」という意味です。ナルトは「迷った時や困った時でも、最後まで頑張るべきだ」ということを教えてくれました。
高校三年生の時、「いい大学に入りたい」という目標のために、毎朝6時に起きて、勉強をしていました。学校の授業は夜10時に終わって、宿題もありました。毎日疲れて眠いですが、ナルトのセリフを思い出すと、力をもらえました。それで、勉強が続けられるようになりました。私は目標に向かってがんばることができました。
私にとって日本文化は人生の教科書です。日本の文化から楽しいことや人生において大切なことを学ぶことができます。きっとこれからも、私は日本文化に様々なことを教えてもらうでしょう。実は、私は日本へ行ったことがありません。これから日本に行って、もっと日本文化に触れて、いろいろなことを楽しみたいと思います。
これでスピーチを終わります。ご清聴ありがとうございました。
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「留学生活、第一歩を踏み出し、新しい人生のページを開いてみましょう」とスピーチを締めくくった王さん。
いろいろ仕事をやった末、「私にしかできない仕事をやりたくて通訳になろう」と決め、日本留学を決意した易さん。
そして、「日本文化は人生の教科書」「私は日本へ行ったことがありません。これから日本に行って、もっと日本文化に触れて、いろいろなことを楽しみたい」と語った何さん。3人が来日して、イーストウエスト日本語学校の教室で、地域社会で、そしてさまざまな都市に出かけて行って学べる日が、一日も早く来るといいですね!
イーストウエストのスピコンは、すべて学生さんが司会を担当するのですが、今回の午後の部は未入国の学生さんが多く、会場での参加は少数派。そんな中で、易さんのクラスでただ一人対面授業を受けているリリヤさん(ウクライナ出身)は、みんなの分も頑張って司会を務めました。ショータイムでは、王さんのクラスの劉涵さんがオンラインで、「それが大事」を見事に歌い上げてくれました。
最後に、ポスター作成についてご紹介したいと思います。今回は、7人の学生さんがポスターを作ってくれました。そのうち3人は、未入国クラスの学生さんです(王芸さん/李忠磊さん/欧阳雨舟さん)。きっと一日も早く日本に行けることを願いながら、描き進めていったのでしょう。オンラインでの提出に感動!
「学びの共同体」づくりをめざしてやってきたイーストウエスト日本語学校には、学習者同士、学習者と教師、教師同士、さらには地域社会との「絆」があり、それがコロナ禍の学生さん達を支えているのだと改めて思いながら、会場を後にしました。
(※台風10号の影響で、突然大雨が降る中、地域にお住まいの方、国際交流協会のスタッフの方、ボランティア団体の方々が参加してくださいました。)